「カッコいいとは、こういうことさ。 かつての「熱風」をもう一度!」紅の豚 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
カッコいいとは、こういうことさ。 かつての「熱風」をもう一度!
舞台は世界恐慌真っ只中のイタリア。かつては英雄と呼ばれ、今は賞金稼ぎとして活躍している飛行艇乗りのポルコ・ロッソと、アメリカから名声を求めてやって来た若き水上機乗りドナルド・カーティスの名誉をかけた戦いを描く航空ロマン映画。
監督/原作/脚本は『となりのトトロ』『魔女の宅急便』の、生きるレジェンド宮崎駿。
子供の頃から何度となく観ている作品。
やっぱりジブリではこの作品が一番好きかも💕
一般受けする作品はほかに沢山あるし、本作の人気が比較的低いというのもよくわかる。
でも、「アニメ」ってこんなに面白いものなんだ!と気付かせてくれたこの作品よりも好きなアニメ映画は多分存在しない。
物事の考え方とか価値観とかを、この作品によって植え付けられた気がする🙄
1930年代初頭のイタリア。それは第一次世界大戦の傷跡が未だ深く残っており、戦勝国でありながら失業や不況に苦しんでいた🌫
戦後頭角を現したムッソリーニが政権を掌握し、ファシズムの動きが加速。暗い時代の到来がすぐそこまで迫っていた。
戦争で活躍していた飛行機乗りたちも職にあぶれ、空賊に身を落としていた🏴☠️
そんなかつての同業者たちを飯の種にしているのがポルコ・ロッソ(紅の豚)!🐷
アドリア海のエースと呼ばれた英雄マルコ・パゴット大尉その人である。
かつては軍人として活躍した彼だが、戦争により人間に失望し自らの顔を呪いで豚へと変えた。
ファシストを嫌い、国家や民族に縛られず、自らの名誉の為だけに空を駆ける彼の名声は遠いアメリカの地にも届いており、ドナルド・カーティスという若き天才パイロットが彼を倒し名声を手に入れようと、イタリアへとやって来る🐍
そこで切られる戦いの火蓋💥
名誉と金と女をかけた男と男の決闘!くぅ〜、堪らん世界観!
この作品はとにかく説明が少ない。
いちいち時代背景について説明しないし、豚へと姿を変えられた理由も殆ど説明がないため、子供の頃はよく理解できなかった。
でも、この視聴者を突き放すスタンスが本作の魅力となっている、と思う。
この作品の魅力はとにかく楽しいドタバタ空中アクション!…ではない。コメディ要素満載な物語の裏にある、寂寥感にこそある。
本来語るべき物語は、この映画で描かれている時代よりも前に存在している。
幼なじみジーナへの淡い恋心と失恋。親友とジーナの結婚。愛機サボイアとの出会い。戦争と別れ。人間への失望。豚への呪い…。
こういったドラマチックなストーリーがあるにも拘らず、それらは物語の裏側に追いやられている。
実際に描かれるのは前述した事柄に比べれば取るに足らない小競り合い。
社会は窮屈さを増し、かつての若者たちは歳を取り、「熱風」のような時代は過去のものへと過ぎ去った…。
もはや語るべき物語は存在していないのだ。
この寂しさや斜陽感が、ドタバタコメディの合間からふと顔を出すため、より一層悲しみが胸を締め付ける。ジーナさんが登場するだけで泣いてます😢
しかし、フィオやカーティスといった新しい時代の若者たちは、オヤジ達の燻りなど知ったこっちゃねえ!と言わんばかりに、「熱風」を背にそれぞれの情熱を燃やす🔥
そんな彼らに影響されて、ポルコもまた再び情熱を取り戻す。
中年を描いた作品だが、その本質は新しい時代を生きる若者たちへのエール。
だからこそ、この物語は全てが終わった(…とオヤジ達が思い込んでいる)時代が舞台なんだろう。
ポルコやジーナが失ってきたものを思い涙を流し、新しい時代への希望に胸を躍らすことが出来る、真に大人の為のアニメ。
糸井重里がつけたキャッチコピーは「カッコいいとは、こういうことさ。」
これはポルコの生き様のことを表していると思っていたが、そうではなかった。
ポルコの社会に迎合しない生き様も、ジーナの飛行艇乗り達に対する無償の愛も、カーティスの野心も、フィオの道を切り開こうとする情熱も、フェラーリンの軍人としての責任感も、空賊達の愚直な人生も、みんなみんなカッコいいのだ。自分の信念に従って生きている人間はそれだけでカッコいい。
そんな人間達が一生懸命に戦うからこそ、『紅の豚』の世界はフィオの言う通り「本当に綺麗」なのだ。
ピッコロ社で埃をかぶっていたエンジンに刻まれていた文字は「GHIBLI」=「熱風」。
宮崎駿が世界中にその名を轟かすのは、本作の少し後のことである…。
ジーナは賭けに勝ったのか?それは…内緒🤫
※
製作費:9億円
興行収入:54億円
=大ヒット!