「格が違う。」紅の豚 Zipangu Genさんの映画レビュー(感想・評価)
格が違う。
25年ぶりに見てみたらあまりの素晴らしさに打ちのめされた。当時見たときはそれほどいい作品だとは思わなかったのだが・・・・私が価値を読み取れなかったのだろう。
宮崎駿の演出ではカメラがこれほどまでに動かないのかと驚いた。戦闘シーン以外ではほとんど動かない。人物だけが動いている。戦闘シーンでも結構カメラは固定で飛行機だけ動いている。それが過剰な興奮を抑えこのような深みのあるラストを導き作り出したのであろう。
余計なネタは一切入れずグイグイ話を進ませて90分で終わりにしてしまう。これが模範なのだよ、映画脚本は。
しかし脚本としては稀な構成になっているので指摘しておこう。
映画は普通、はじめの方で主人公に課題が提示され、それをどうクリアするのか?
というベクトルで進んでいく。しかし、この脚本はまず、子供達を助けに行くというその場限りの課題で始まり、30分くらい経ってからようやく飛行機を直さなければという課題が発生する。だが・・・それはこの物語に読者をひきつける本当の課題ではない。本当の課題はポルコの今後である。
「おめぇ世捨て人みたいになっちゃってそういう生き方をしてるけど、時代が変わったからもうその商売ダメだぜ。どうするよ?」
って説明ゼリフはないけども、暗にそういう課題が提示され観客はポルコを見守っていくのである。これはそういう映画なのだ。子供たちの救出、飛行艇の修理、娘っこの結婚の阻止とその場限りの課題を寄せ集めただけの如くな外観を持ちながら実の課題はポルコの行き方・将来なのだ。主人公のキャラがいいのでその課題が実に生きている・・・その強がり、寂しさが歌にマッチしていて素晴らしいラストシーンとなっている。
それと飛行機を直す課題と借金を返す課題と彼女問題を上手くリンクさせて仕上げている。見事だ。脚本が単純でまるであっという間に簡単に一筆で書いたように見えるのはそれが見事な脚本だからである。これは宮崎駿の最高傑作かも知れない。少なくともそう呼ぶに値する水準に達成ている映画である。
随所にキマっているセリフのカッコよさ。冒頭部分の面白さ。退屈になりそうなところで工房に女ばかりやってくるというアイデアの冴え。むかし語りのイメージの美しさ。もちろん、その部分は主人公の課題にリンクしていて訴えるものが強い。女の子が随分経ってからでてきてしかも危うくヒロインとキャラかぶりする寸前なのだが上手く処理されている・・・これは書こうと思って書けるレベルの脚本ではなく神の力によって書けてしまった脚本である。そして天才とは神の力によって何度もいい作品が書けてしまうのである。そして素晴らしい音楽に恵まれてしまうのである。私は映画はこれで二回見ただけだがサントラは25年前に購入してこれまで何度も聴いている。