ディパーテッド : インタビュー
巨匠マーティン・スコセッシ監督が傑作香港映画「インファナル・アフェア」(02)をリメイクし、世界中で大ヒットを記録している「ディパーテッド」。本年度ゴールデングローブ賞の監督賞を受賞するなど、いよいよオスカー受賞の気運が高まる中、スコセッシ監督が主演のレオナルド・ディカプリオと共に来日。会見での“怒り”の爆弾発言(詳細はこちら)の真意を含め、映画評論家の佐藤睦雄氏がスコセッシ監督に話を聞いた。
マーティン・スコセッシ監督インタビュー
「“裏切り”の映画をつくることで、自分の心をも裏切ってしまったんだよ」
(佐藤睦雄)
──来日会見での爆弾発言の真意は? なぜ、怒りをおぼえたのですか?
「本当は、もうひとつのプロジェクトのほうを進めたかったんだよ。すでに脚本は出来上がっていたし、そちらのほう(注:遠藤周作の『沈黙』の映画化)を先につくりたかったんだ!
そんな状況で手渡されたのが、世界中いろんな映画があるが、香港シネマの焼き直しの企画だった(注:過去に『ハスラー』の続編である『ハスラー2』、『恐怖の岬』のリメイクである『ケープ・フィアー』がある)。試しにその1ページ目を読んでみたら、これが意外に好きだった。それからどんどんページを読み進むうちに、とても危険な匂いがした。3時間あるいは4時間、夢中になって読むと、さまざまなビジュアルが浮かんできた。オリジナル映画は見ていなかったから、ビル(ウィリアム)・モナハン版の脚本から連想したイメージだ。物語は、アイルランド系カソリックのアメリカ人の話だった。他の民族との文化的な衝突も描かれていた。
私が育ったリトル・イタリーの隣の家にはアイルランド系のタフガイ(ギャング)が住んでいたから、脚本の中にあった世界がなんとなく理解できた。私が通った神学校では、尼僧がアイルランド系で、司祭はイタリア系でとても仲が良かったが、本質的な部分でイタリアン・カソリシズムとアイリッシュ・カソリシズムはまるっきり違うものだからね。結局、私たちは聖職者とギャングに育てられていた。宗教はストリートで生き抜くための道を説くものだ。私が6年生の時、若い神父(注:プリンシップ神父)がはじめて説教してくれたんだ。ちょうど、アカデミー授賞式の翌日で、偶像と偽の神、人間の貪欲さ、金銭、そして名誉について話してくれた。ステージに上がったオスカー受賞者をたとえて、自己中心主義も説明してくれた(笑)。(注:『波止場』のマーロン・ブランドのこと)
話を戻そう。ビル・モナハンと全キャラクターを掘り下げていった、全部のストーリーを洗い直したわけだ。そのうち、スタジオがジャック・ニコルソンをキャスティングした。彼のために、私たちは少し脚本を書き直した。(映画を語る上で)どんな方法がいいだろうか考えた。ジャン=ピエール・メルビル(注:警察への密告者を描いた『いぬ』などがある)は? いくつかの韓国シネマ(注:キム・キドク、ポン・ジュノらのことを指す)は? または他のたくさんの映画のスタイルを思い浮かべた。つまるところ、自分なりのスタイルを見つけたわけだが、無性に“怒り”が湧いてきたわけだ。結局やっていることは“イミテーション(偽物)づくり”じゃないか。こんな方法、滑稽で間違っているとね!
映画づくりはそれなりに楽しかったが、“裏切り”の映画をつくることは、自分の心をもある意味、裏切ったかたちになった。私はB級映画のような精神で、この『ディパーテッド』を撮ったにすぎないんだ。ところが、観客や批評家が予想外に評判がいいんで、とても驚いている! 会見で名前を挙げた映画作家たちは素晴らしい作品を残しているが、彼らの作品は(観客や批評家から)忘れ去られようとしている。なんて皮肉なことだろう(苦笑)」