「これは傑作」アフター・ザ・ハント ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
これは傑作
「クィア」の劇場公開から間髪入れずに送り出された本作。ルカ・グァダニーノ監督の仕事の早さに驚くが、脚本がほぼ新人といってもいい俳優のノラ・ギャレットさんということに驚く。
相変わらずトレント・レズナー&アッティカスロスによる音楽はオシャレだ。
哲学科の助教授と学生達によるドロドロした色恋沙汰と見せかけて、LGBTQからキャンセルカルチャーまで横断し、最後はやっぱり人間の純粋で切ない片想いや愛というところに持っていくところがグァダニーノらしい。
キム先生の台詞は的確に現代社会を捉えており耳が痛い場面もあった。
そして確かに声を上げることは大事だし、誰にでも真実を語る権利はある。如何なる権力や偏見もそれを隔てはならない。
確かにそうだ。しかし真実とは?
この映画ではさまざまな哲学者の言葉や講義テーマを通してロジックが語られる。
ロジックで武装された文章は最強だ。
ジュリア・ロバーツ演じる本作の主人公アルマは論理主義者で言葉による論理の破綻を許さない。
しかし人間とはどうあっても感情の生き物なのである。
ノラ・ギャレットやグァダニーノの語りたいテーマはここである。
論理武装を解いたアルマが真実を語る。フレデリックの愛は決して彼女の心に届かないという真実。切な過ぎる。
グァダニーノはどれだけ人を愛してきたのだろう。
あの病院のシーンが本作のクライマックスである。
エピローグはまさに嘘みたいな後日談である。
ドン底から嘘みたいに学部長に上り詰め、死のオーラがぷんぷんしていた元彼のハンクも政治家を目指して充実しており、肝心の告発者マギーは新恋人と婚約中という。
そんなわけあるか!!笑
映画とは"嘘"である。
このエピローグシーンやハンクがアルマのアパートを出ていくシーンに出て来るハエはまさに死の象徴である。
アルマの告白と病に倒れるシーンをクライマックスとすれば、当然ハンクはあの後自殺し、アルマはあのまま帰らぬ人になるというのが筋道であったと思う。
ラストの「カット!」という声を入れることは監督の茶目っ気なのか、はい!嘘ですよ!という表明なのか。
やっぱりグァダニーノの映画はアートなんだよなぁ。
相変わらずフィルム撮影にこだわっていて色彩が美しいし、急なカメラパンやズームなど不穏な動きで神経を逆撫でしてくるような演出は風変わりで良い。ここだけでグァダニーノ作品だとわかる。
それにしても初恋相手の写真と相手を自殺に追いやったニュース記事の切れ端をあそこに隠すか?!笑
本作で1番気になったところだが笑
ハイデガーは浮気相手の扱いがクソというセリフには笑った。
