「こんな不思議な魔法は無い」ペンギン・レッスン 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
こんな不思議な魔法は無い
タイトルの文句は、挿入歌の歌詞の一言目です。確かに不思議で仕方がありません。一匹のペンギンが何の関わりも理屈も無く、周囲の人間達を変えていくなど、どんな魔法が働いたというのでしょう。
映画として、特別、珍しい内容では無かったと思います。普通に良い映画なんですが。
なりゆきで(ダンスホールで引っかけた女性に連れられて)拾っちゃったペンギン。あれよあれよと飼うことになり、人生に達観してしまった皮肉屋の教師をはじめ、ふざけてばかりの生徒達はまとまり始め、いじめられっ子は成績優勝で表彰され、最後には絶対に無理っぽい校長先生まで陥落。肝心のペンギンは「餌くれ」って懐いていただけ。何の意図も無く下心だけで生きている生き物だからこそ、裏表のない純真な生き物に心を開いてしまうのは必然でしょうか。ベランダで自分の思いを語るシーンは、どうみてもカウチに横になってカウンセリングを受けているようにしか見えません――ああ、そうか。人の心を変えた魔法というのは、そういう理屈なんでしょうか。
この映画の肝心なところは、軍事政権下で弾圧される人々の、その背景でしょうか。肝心のペンギンよりも、まず冒頭で「街を行き交う人々を見張っている軍隊の姿」の映像による幕開けがそれを物語っていたと思います。何の犯罪を犯していなくとも反政府的な発言をしただけで逮捕されてしまう、そんな抑圧された社会の中での出来事。ならばこそ人々の心が閉ざされてしまうのも無理からぬ所だろうか。そんな社会だからこそ、ペンギンの純真さが魔力をもってしまうのか。
その魔法は最後に奇跡を起こす。(あ、ネタバレです)逮捕されたあの家政婦?の孫娘さんが、みんなでペンギンの葬儀していたその最中に、釈放されて帰ってきた奇跡。釈放されたのは回心した英語教師の抗議が効いたのかもしれないけど、葬儀の最中という劇的なタイミングになんだか魔法めいたものを感じてしまう。ペンギンの最後の贈り物と言うべきか。どう考えても単なる偶然だと思うけど。
実話ベースのお話ということだから、釈放のエピソードは盛ってるのかもしれません。でもこの奇跡こそ、この映画の最大の意義だったかと思います。
そういえば、この最後の葬儀が私の好きなカーテンコールの役割を果たしていますね。葬儀といえば悲しいイベントではあるけど、ペットを飼えばいずれはやってくることだし、そこまで見届けることこそ、飼い主の役割ということでしょう。
カーテンコールなら、あの逮捕したサングラスの男も悪役として出すべきだったか? そこまでやっちゃうと奇跡にならなくなっちゃうか。
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