劇場公開日 2025年12月19日

「それは愛ではなく、雰囲気だった」楓 こひくきさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5 それは愛ではなく、雰囲気だった

2025年12月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「感動しました」と言いやすい空気を丁寧に醸成することに、ほぼ全リソースを振り切った作品である。言い換えれば、観客の感情ではなく、感想欄の雰囲気を設計した映画だ。

喪失と愛を描くと言えば聞こえはいいが、その実態は倫理的にかなり危うい行動のオンパレードである。身代わり的に他人の人生へ入り込み、相手の悲嘆と混乱に付け込む構造は、現実世界なら恋愛ではなくトラブル案件だ。しかし本作は、その問題性を真正面から扱う勇気を持たない。代わりに、美しい風景と名曲と意味深な沈黙で「これは純愛です」という顔をしてやり過ごす。

細部も同様だ。私有地への無断侵入、野良猫への餌やり、距離感を誤った接近行為。どれも現代的な感覚では一発アウトだが、カメラが寄れば許されるらしい。倫理や現実は、画角の外に置いてくるものだという、古き良き“雰囲気映画”的発想が透けて見える。

台詞に至っては、会話というより説明文だ。人間が本来言葉にしない感情を、登場人物が律儀に口に出すため、観ている側は感動する前に冷静になる。「泣いていい場面ですよ」と肩を叩かれているようで、感情が立ち上がる余地がない。

結局のところ『楓』は、切なさを描いた映画ではない。切ないと言ってもらうための映画だ。優しそうな嘘を積み重ね、問題点をすべてロマンに変換する。その手際は見事だが、観終わった後に残るのは感動ではなく、「これは本当に肯定していい話だったのか」という、消化不良の違和感だけである。

こひくき
トミーさんのコメント
2025年12月24日

ちょっとあの年齢の男女の恋愛とは思えませんでした。まるでタッちゃんが亡くなったカッちゃんの代わりに、公式戦に登板するが如く。

トミー
uzさんのコメント
2025年12月23日

あの歳で同棲してて性的接触がないわけないのですが、バレてないと思ってた涼がしてたと思うと…
そういう不都合もすべて描かないことで消してましたね。
涼の両親が昔のビデオを見てるシーンと台詞は、唐突でわざとらし過ぎ。
全体的に薄くて軽くて雑でした。

uz
おつろくさんのコメント
2025年12月23日

共感ありがとうございます!

この作品は、セカチューと同じ最も分かりやすい王道のラブロマンスの定型文的な構成ですよね。スピッツの楓が原案という事は、監督としては壮大なMVとして観てもらいたいという意図があったのではないかと類推しました。

自分も「感動しました」と胸を張って言えるような感想は持てませんでしたが、恥ずかしながら意図せず泣かされたという事実は残ってしまいました。

おつろく
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