「狂った母性」クライシス・オブ・アメリカ odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
狂った母性
シナトラがマルコ少佐を演じたオリジナル「影無き狙撃者(1962)」を娘のティナ・シナトラがリメーク(製作)。冷戦が終わり共産主義が脅威ではなくなったので大企業と政治家の母親の陰謀に置き換えられている。無理筋の脚本、演出だがデンゼル・ワシントンさんの存在感でなんとか観られました。
息子を大統領にするためには手段を選ばない狂った母親をメリル・ストリープが怪演。いくら息子が言いなりにならないからと言って脳手術までして従わせるプロットは度を越している。
妙なカプセルを埋め込んで操るのはSFによくあるがキーワードで服従させるところはまるで催眠術と変わらないので拍子抜け。
息子の洗脳は解けていないのにわざわざホテルの隠し部屋で再手術するのもマッドサイエンティストの怖さを見せたいだけに思えます。
しかもカプセルを取り除き電気ショック療法で洗脳を解いたはずのデンゼル・ワシントンが暗示にかかるのは腑に落ちない、埋め込まれたカプセルは一個ではないのでしょうか・・。
確かに荒唐無稽な話だから誰にも相手にされなくても仕方ないがカプセルが出た時点で信憑性は高まるでしょう、肝心のドイツ人医師が姿を消してしまったのも敵の仕業かFBIか曖昧だし、FBIの絡み方が中途半端です、ハラハラさせたいのでしょうがデンゼル・ワシントンの孤軍奮闘ぶりばかりが際立ちます。
この手の映画では汚い仕事は黒幕企業が雇った殺し屋が出てくるのが相場だがSPに常時警護されている息子に殺らせるのは不可解、流石にSPが狙撃銃を隠すシーンを入れて辻褄わせはしているが、だったら彼らにやらせてもいいでしょう。妙に悲劇性を演出するのでサスペンス感が薄れ作り物臭が興を削ぎますね。ただ、国家ぐるみで暗殺犯をでっち上げたくだりはケネディ事件への暗喩なのでしょうか、やられました。
ティナ・シナトラの思い入れが強かったのか中途半端に原作に拘るから脚色次第では一流のポリティカル・サスペンスにできる映画を安っぽいギリシャ悲劇もどきにしてしまいましたね。
デンゼル・ワシントンさん、お疲れ様でした。