「生きてさえいればやり直せる死ぬ気でドライブ」ロスト・バス とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
生きてさえいればやり直せる死ぬ気でドライブ
人災によって引き起こされる今日の「災害」を描いたこのディザスター・スリラーは、多くのディザスタームービーが陥りがちな「自分(とその家族さえ)よければ全てよし」という考えに慢心することなく非常時でも他の人を気にかけながら、自分の人生すらも見つめ直すというヒューマニズムを描いている
『ブラディ・サンデー』『ユナイテッド93』『7月22日』の名匠ポール・グリーングラスが、またもや実話を映画化した本作は、彼の卓越したストーリーテリングと、それに応えるようなマシュー・マコノヒー✕アメリカ・フェレーラの熱演によって支え高められている。
パラダイスは辺り一面、地獄絵図に。今年観た映画の中で一番目の前が真っ暗に、息苦しさを感じた映画かもしれない…。『ロスト・バス』というタイトルから『オンリー・ザ・ブレイブ』のような最悪の結末が待っているのかと予想して、観るのに少し躊躇したが、その結末はぜひ自分の目で確認してほしい。原因は、"これくらい"が罷り通るPG&E社による人災、大企業と自分勝手な人々のエゴと振る舞い(ex. 公害からポイ捨てまで他人事じゃない)。人の愚かさ。
『スピード』のように正反対の男女2人が緊急事態下で同じバスに乗り、互いに似た境遇にあることを知り、そしてはなればなれになった家族の元へ帰れるか。必要にしているこんなときにも行ってやれない…。自分の家族は遠くにいてそばにいてやれなくて、外界との通信を遮断され孤立した中で目の前にある命たちを救おうとしている。けど救えたとしても一件落着でなく、自分の家族が無事か気が気じゃない。考えたら絶望的な状況すぎて、息が苦しくなって、気づいたら泣きそうになっていた。途中の手に汗握る展開は、『恐怖の報酬』ですらある。
主人公ケヴィンの決断といざとなったときの行動力も、ルールに縛られた石頭メアリーも子どもたちを引率しながら真摯に向き合う姿勢もよかった。最後の最後まで諦めてはいけない。アクセル全開死ぬ気で生きれば、手遅れになる前に人生やり直せるかも。バスに乗るときのやたら形式張った感じ(子どもたちがパニックにならないためには大事だが)と、降りるときのメアリー先生の変化。広い世界に出るのも、地元で生き直すのもどちらも正解。
急激に燃え広がる火視点の『死霊のはらわた』ショットが怖かった。ドキュメンタリータッチなハンディ撮影はもちろん、シーンの繋ぎが前後のカットで一致しているようなところも見られてよかった。あと、並行して描かれる、隊長を視点人物にした消防隊サイドのサブプロットなストーリーラインは、混乱した主人公サイドを俯瞰した状況で観客に伝えながら、"緊張と緩和"ではないけど陽が見える場面としても機能していたし、本作のテーマを語る上でも必要でしっかりと納得感があった。観終わった後には、酸素・水・太陽がほしくなる映画。
P.S. ゆえにディザスタームービー苦手な自分にもハマった。一方でそれゆえに、テーマの打ち出し方や作品クライマックスの見せ場の作り方には、些か説教臭さや作り手の作為を感じて、一部の観客を遠ざけてしまうかもしれない。だけど、自分としてはこれでいいと思えた。
キャンプファイヤー