「犬も食わぬ夫婦喧嘩をコメディに昇華させるというのはやはりハードル高かったようで 英国生まれのプチブル、スノッブ風の夫婦がカリフォルニアでFワードを連発するコメディ」ローズ家 崖っぷちの夫婦 Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
犬も食わぬ夫婦喧嘩をコメディに昇華させるというのはやはりハードル高かったようで 英国生まれのプチブル、スノッブ風の夫婦がカリフォルニアでFワードを連発するコメディ
えー、昔から、夫婦喧嘩は犬も食わぬとか申しましてな。よそ様の家庭の揉め事にはあまり関わらないほうがよろしいかと存じます。ましてや、それをネタにして物語を作ろうなどというのは、神をも畏れぬ悪魔の所業といったあんばいでございましょう。
まあ想像してみてくださいよ。東京郊外の町田あたりに25年ローンかなんかで購入したマンションに子供ふたりと住んでいる夫婦の物語を。言いたくもないおべんちゃらを言い、つきたくもない嘘をつきながら、ようやく課長というポジションにたどりついた旦那と近所のスーパーでパートで働いている嫁が上の娘の進路についての意見の相違が原因で(嫁のほうが子供の頃に憧れていたけど入れなかった学園に、娘を中学から通わせたいと主張するのに対して、旦那は公立の中学でいいだろと反論します)、喧嘩が始まり、やがてそれが全面戦争に拡大してゆくなんてお話、誰も聞きたくないでしょ。
そこでこの作品では犬も食わぬ夫婦喧嘩を大人の鑑賞に耐え得るコメディに仕立て上げるためにいろいろと工夫を凝らしております。まずは喧嘩する夫婦に夫ベネディクト•カンバーバッチ、妻オリビア•コールマンという英国を代表する名優を起用、夫が建築家、妻がシェフというという、ふたりともアメリカなら6ケタドルの年収が可能な専門職に就かせ、英国から自由な風を求めてカリフォルニアにやって来た、プチブルにしてスノッブ風味をまぶしたハイソな雰囲気を漂わせる夫婦にしております。で、夫のほうが建築家としてかなり酷い失敗をして職を失ってしまうと、妻のほうがオーナー•シェフとして活躍するレストランが大繁盛し始めるといった具合に、ローンが半分以上残る町田のマンションに住む夫婦ではとても考えられないような劇的な展開をしてゆきます。でも面白いかと問われれば、まあそこそこは面白いけど、それほどでもないよなと答えるしかないレベルかな。
所詮は夫婦喧嘩、お前らふたりで勝手にやってろということなのでしょうか。犬も食わぬという表現には、ふたりの間に割って入って仲裁なんて野暮なことを試みても無駄だよという含意があると思うのですが、実はこの話、報酬を貰ってふたりの間に入る専門職のプロフェッショナルが出てきたときがいちばんコメディとして機能してるような気がします。まずはふたりの結婚についてのカウンセリングを行なうカウンセラーの登場時。お互いの長所を挙げてくださいと問われたふたりはイギリス人がよく使うサーカズムの反転版みたいな物言いで相手の「長所」をあげますが、まあそのえげつなさといったら…… 次に離婚に向けての話し合いにふたりがそれぞれの弁護士を連れてきたとき。特に妻側の弁護士が典型的なパワー•ネゴの手法でガンガン押してきます。で、その妻側の弁護士は脅しみたいな感じで話し合いの場に獰猛な犬を連れてくるんです。まあ英語圏に「犬も食わぬ」なんて表現があるかどうかは別として、「人を食った」話だなあとは思いました。
結局、物語はちょっと鼻持ちならないセンスの小ネタだとか、Fワード連発の罵り合いだとか(ふたりともイギリス人なのでBワードだと思っていたのですが、今はFが主流なのかしらん)を通り過ぎて、とりあえず、こんなオチでもつけとくか、みたいな、やる気が見えない結末で終わります。やれやれ。
これ、どうせスノッブ風味なら、ウッディ•アレンに作らせたら、苦いユーモアを含んだ洒落て粋な物語になったのでは、と思いました。

