「長く一緒にいるほど難しい? 片目をつぶることと思いやり」ローズ家 崖っぷちの夫婦 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
長く一緒にいるほど難しい? 片目をつぶることと思いやり
サーチライトピクチャーズ、カンバーバッチ&コールマンという組み合わせに惹かれて鑑賞。リメイク元の「ローズ家の戦争」(未鑑賞)がレビューサイトで星少なめ評価なのが若干気になったが、なかなか面白かった。
主演2人は私の中ではシリアスな作品や難しい役柄での印象が強いのだが、経歴を見ればコメディの経験も豊富であり、気持ちのすれ違いから対立に発展する夫婦のやり取りを軽妙に演じている。それだけでなく、本格的なバトルに至るまでの2人の心の揺れもリアルに表現していて、夫婦のあり方について考えさせられた。
妻のアイビーの作る美味しそうな料理の数々、夫のテオが設計した海辺の邸宅が見事で、目でも楽しめる。
正直、殺伐としたバトルがメインの話だろうと漠然と予想していて、むしろそれを期待していたのだが、中盤を過ぎるまではなんだかんだ言いつつも互いにギリギリで踏ん張って冷静な態度を見せたりして、小康状態が続いたのは意外だった。
友人のアメリカ人夫婦から銃をもらったり、新居にナイフの埋め込まれたテーブルを置いたりといったエピソードはフラグでしかなかったが、中盤まではテオとアイビーの夫婦にも一応大人の分別があり、不満の炎が燃え上がることはかろうじて回避してゆく。
ところが、テオが設計した海洋博物館が嵐に吹き飛ばされてから芽生えた夫婦のパワーバランスの変化が、次第に効いてくる。博物館がド派手に崩壊する様子がMADムービーで拡散され、仕事が全く来なくなったテオのプライドはズタズタだ。一方、同じ嵐がきっかけで経営するレストランが評判になったアイビーは仕事にのめり込むようになる。
育児に専念したテオに、あっという間に調教された娘と息子(アイビーが夜中にお菓子を食べさせようとしてたのは確かによくない)。
契約がどうとか言い出して、後で父の洗脳の反動が来るかと思いきや、体操の専門学校(?)に進学までしてしまう。それでいて、両親の不仲も最初から見抜いていて離婚話にも動じないという謎に鋼メンタルの子供たち。
クジラ救助でのスピリチュアル体験から離婚を思いつくテオだが、離婚協議の入り口でつまずいてしまう。協議の場に犬を持ち込む弁護士と、テオ側の弁護士にビシッと言われるとスンッとなる犬に笑った。まあ、自分でデザインしたとはいえアイビーの収入で建てた家をもらおうとするテオもどうかと思う。
家を自分に譲るという契約書にサインをさせようと手段を選ばないテオ。騒音の嫌がらせ、希少本を燃やす、果てはアイビーにアレルゲンの食品を食べさせる。嘘のサイン(何故かゼンデイヤ笑)をして危機を回避するアイビー、賢い。命に関わる脅しをされたんだから、そりゃ銃で反撃するしかないよね(ないのか?)。
最後は急転直下で愛情が復活するものの、バトル中にテオが破壊したジュリア・チャイルドのコンロから漏れたガスが滞留する中、テオがハルに暖炉点火を指示。間違いなく爆死というびっくりエンディング。
でもまあ、あそこまでこじれて命のやり取りにまで足を突っ込んだ夫婦は、一瞬仲直りしたところでまたもめるだろう。愛情を再確認したタイミングで死ねるならある意味ハッピーエンドでは?
イギリスの聖職者トーマス・フラーは言った。「結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ」
作中、テオの友人の弁護士バリーも「よいところだけを思い出せ」とか何とか言っていた。テオたちも途中までそれなりに頑張っていた気はする。だが、片方が幸運を手に入れ、もう片方が不幸に見舞われる中で、どこまで相手を思いやれるか。考えてみればなかなかの試練だ。
テオたちのギスギスした関係を笑いながら、自分には彼らの愚かさを他人事のように笑う資格があるのだろうかと、心の片隅で自問する。銃やナイフまで行かなくても、夫婦関係がこじれる時に誰もが陥りやすい典型的なパターンが、ローズ家の物語のそこかしこに埋め込まれているのではないだろうか。

