「耐える時間が長い」ベートーヴェン捏造 コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
耐える時間が長い
予告編からは、かつてのTVドラマ『のだめカンタービレ』のシュトレーゼマン=竹中直人や、映画『テルマエ・ロマエ』の阿部寛を思い出した。
ベートーヴェン役をはじめ、オールキャスト日本人ということが、ギャグかコメディだと思わせておきながら。
音楽教師(山田裕貴)が語る、「ベートーヴェンの伝記を捏造した事件」のあらましを、聞いている中学生の脳内でドラマ化した想像の世界という体に、なるほどと思う。
黒田が捏造犯のシンドラー、担任の先生(染谷将太)がシンドラーの嘘を暴くアメリカ人ジャーナリストのセイヤー、他の当時の音楽関係者も全て中学生の知人や、彼が知っている芸能人が割当てられているという形。
そういった試みは決して悪くはないのですが、それとは別に、中盤まで壮絶な眠気との戦いを強いられました。
先生の説明セリフを、キャラが説明セリフとして淡々と語る会話劇が続く展開がつらかった。
音楽家ベートーヴェンをいかに自分が崇拝しているかを語る、狂信者シンドラーの自分語りが大半。
甥っ子を自死未遂を起こすほど精神的に追い詰めたとか、ベートーヴェンの人間性の酷さエピソードが、延々と。
半ば過ぎにベートーヴェンが死んでから、やっと動きが出てきて眠気が軽くなった。
作品や仕事の偉大さに対して、日常生活では癇癪持ちでだらしないダメなおっさんだったベートーヴェン。
その生活実態や、しでかしたスキャンダルの数々を隠蔽し、美化されたエピソードや勝手な心情を捏造して、嘘を嘘で隠していくうち、シンドラーは次第に嘘をつくことに良心の呵責を感じなくなっていき、どんどん取り返しのつかない嘘の肥大を起こす。
それを読んだベートーヴェンの弟子や友人達による、情報戦というか、泥試合がスタート。
終盤、セイヤーが現れてからが、やっとこの映画の本番で、面白くなっていった。
SNSなどで顕著な、「情報の真偽より、ちょっといい話に騙される」とか、「人は自分の信じたいものだけを信じる」とか、受け取る側の姿勢の問題を否定的に揶揄する意図が透けて見えました。
さらには、「そうやって陰謀論的な捏造された過去話を拡散する人間が、元の話を捻じ曲げ、捏造してるんじゃないのか?」という疑念まで提示していた。
極めて現代的なテーマに感じました。
中学生の最後の嫌味なセリフに、本作の全てが集約されていて、面白かったですよ。
そこに至るまでが、怠(だる)いけど。
大事なことなので二度も三度も書くが、面白くなるまで耐える時間が長かった。
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