「ライアン・クーグラーの特製闇鍋」罪人たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ライアン・クーグラーの特製闇鍋
実話ベース、名作その後、アメコミなどで才を発揮し、すっかり現ハリウッドきってのヒットメーカーとなったライアン・クーグラーのニュープロジェクトは、完全オリジナル。
これまでのどの作品とも違う。何処にこんな引き出しあったのかと驚く。
斬新さと野心さ。一つのジャンルに括る事や説明するのが難しい。
双子の黒人が故郷に帰る。西部劇ムードも漂う、古き良きアメリカ映画…?(でないのは雰囲気から明らか)
双子の片割れはかのアル・カポネの下で働いていた。禁酒法時代、双子は酒場を開こうとする。犯罪映画…?
双子の弟分な青年サミー。ラストも(老年期の)彼で締めたり、実はなかなかキーキャラ。彼のアイデンティティー…?
常連マイケル・B・ジョーダンが一人二役。個性的な登場人物や軽妙な会話のユーモア要素、妻や元恋人との再会の恋愛要素、哀愁漂うドラマ要素をスパイス。
印象的な味付けに当時の黒人差別への訴え。黒人を隔離する“ジム・クロウ法”が背景になっている。ブラック・ミュージックを歌う酒場や黒人アウトローはそのアンチテーゼにも捉えられる。
遂にオープンした酒場。人々が集い、大い賑わう。音楽映画…?
宴に誘われてやって来たのは、一見流れの白人ミュージシャンたち。追い返すが、彼らの正体は…。
賑わう宴の夜は、恐怖と惨劇の夜へ。
ジャンルごちゃ混ぜのメインディッシュは、ヴァンパイア・ホラーだった…!
まるでクーグラー版『フロム・ダスク・ティル・ドーン』のような。
不穏さと何処かシュールさを漂わせ、ヴァンパイア乱入辺りから一気に畳み掛ける。
怖さは無いが、意外とバイオレンスなアクション。
そこに異様な高揚感の音楽の力。白人たち(実はヴァンパイア)のカントリー・ミュージック風の曲はなかなか聞き惚れ、一部ミュージカルのような装いも。
ヴァンパイア・ホラー×アクション×音楽。下手すりゃ支離滅裂になりそうなものを、クーグラーはしっかりエンタメに昇華。
その上でメッセージ性やドラマもそつなく。
双子のスモークとスタック。固い絆で結ばれていたが、ヴァンパイアになってしまった元恋人のメアリーにスタックが噛まれてしまう。自分の半身を失い悲しむスモークに、ヴァンパイアになったスタックが揺さぶりを掛ける。
人間か、ヴァンパイアか。傍目には分からない。疑心暗鬼になったりユーモア孕んだり。
外にはヴァンパイアの集団。スモークらは酒場内に閉じ籠る。
酒場の面々は黒人やアジア人。行き場が無い。
ヴァンパイアは主に白人。圧を掛ける。
この意味するものは…?
ヴァンパイアのリーダーにも横暴や傲慢が見受けられる。
襲い来るもの、退治するものはヴァンパイアではなく、人種差別。クーグラーの訴えは強烈だ。
全米ではオスカーノミネートも有力視される絶賛と初夏のサプライズ大ヒットだが、合わない人も多いだろう。
かなりブッ飛んだ題材。バイオレンスやグロ。ポリコレ。…
濃いように思えて、一体何だったんだ?…とも。
珍味で旨味もある刺激的なライアン・クーグラー特製闇鍋をご堪能あれ。
ラストシーンから察するに、続編も出来そうな…?
あの2人が現代で…って感じで。
そうなれば『ブラックパンサー』や『クリード』以上にライアン・クーグラーのライフワークになったりして…?
