「罪人とされる人の方が紳士的に見えるのは、あの時代が遺した人類への課題のようにも思える」罪人たち Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
罪人とされる人の方が紳士的に見えるのは、あの時代が遺した人類への課題のようにも思える
2025.6.26 字幕 T・JOY京都
2025年のアメリカ映画(137分、PG12)
1930年代のミシシッピ・デルタを舞台にした一夜限りのパブの悲劇を描いたホラー映画
監督&脚本はライアン・クーグラー
原題の『Sinners』は「罪人たち」という意味で、キリスト教的には「神の教えに背く行為をした人」という意味
物語の舞台は、1932年のアメリカ・ミシシッピー州クラークスデール
退役軍人のイライジャことスモーク・ムーア(マイケル・B・ジョーダン)とイライアスことスタック・ムーア(マイケル・B・ジョーダン)の双子は、パブを始めるために白人のホグウッド(Dave Maldonado)から工場跡地を買うことになった
二人に加わるのがいとこのサミー(マイルズ・ケイトン、老齢期:Buddy Guy)で、彼の父ジェド(Saul Williams)は町の牧師をしていた
3人は機材を拾ってテナントへと向かい、パブを開店する用意を始めていく
スタックは町に出て、ピアニストのデルタ・スリム(デルロイ・リンドー)をスカウトし、用心棒としてコーンブレッド(Omar Benson Miller)を雇い入れる
店の看板を仕入れ屋のグレース・チョウ(リー・ジンリー)に依頼し、夫のボー(Yao)も開店準備を手伝うことになった
スタックと共に行動していたサミーは、そこで歌手活動をしているパーリン(Jayme Lawson)と出会い、店に来るように誘う
そこにはスタックの元恋人メアリー(Hailee Steinfeld)もいて乗り気だったが、スタックは店は黒人専用だから辞退して欲しいと伝えた
一方その頃、スモークは別居中の妻アニー(ウンミ・モサク)の元を訪れ、パブでの料理を依頼する
出征時に渡したペンダントを引き合いに出し、息子は助からなかったが、スモークには加護があったと言い、二人は再び結ばれることになった
物語は、パブを半日で仕上げていく様子が描かれ、その背景である男が白人夫婦の元に向かう様子が描かれていく
アイルランドから来たレミック(ジャック・オコネル)は、ジョーン(Lola Kirke)とバート(Peter Dreimanis)の元を訪れるのだが、そこでバートがレミックに襲われてしまう
レミックは吸血鬼で、噛まれたバートも吸血鬼化し、ジョーンもその餌食になってしまう
そして、レミックに支配された二人は、彼と共に開店直後のパブに姿を現すのである
映画は、いわゆる吸血鬼映画で、吸血鬼のルールである「住人の許可がないと建物に入れない」というのを強調したシナリオになっていた
ジョーンがレミックを見かねて招いたり、グレースがレミックを挑発するなど、事態を悪化させていくのは女性となっていた
だが一方で、愛に従順で尽くす様子も描かれていて、激情的なものが生み出す光と影がそこに描かれていたように思える
映画の冒頭は、惨劇が起こった後から描かれ、「1日前」へと戻る構成になっている
その1日前では、ジェド牧師がサミーに対して、「コリント人への手紙」の「第10章13節」を引用して、神様の教えを説いていた
この節はかなり有名な一節で、「神様は乗り越えられない試練は課さない」というもので、「耐えられるように、試練とともに脱出の道も備えてくださっている」という言葉となっている
映画のタイトルもキリスト教的な意味合いでの「神様の教えに背いたもの」みたいなニュアンスになっているので、この一連の惨劇はサミーに下された試練というように描かれている
彼は父に言われてもギターを捨てることがなく、あの日始まったものを老齢期まで続けていた
サミーは「悪魔をも呼び寄せる魂の歌を歌える人」なのだが、悪魔を呼び寄せた一方で、犠牲になった人々を歌の世界に生き残らせている存在でもあったと言えるのだろう
そして映画のラストでは、ある人物との再会が待っていた
彼らは「ある提案」をサミーにするものの、「私は十分に生きた」と答える
それは、あの言葉で「試練が完結する」ようにも思えていて、サミーは人生を通して、神様の教えに背かない人生というものを貫いたのだろう
犠牲になった人々が背いた人とは言えないと思うのだが、あえて吸血鬼化することで生き延びようとした人々は、文字通り「罪人」と呼ばれても仕方がないのかな、と思った
いずれにせよ、かなり宗教色の強い作品で、1930年代のアメリカの黒人差別の状況であるとか、ミシシッピデルタがどんな地域だったのかを知っておいた方が良いと思う
一応は、町には白人専用のものしかなく、黒人は奴隷のような扱いで綿花事業に従事しているなどのわかりやすさもある
地主の双子に対する態度を考えると、あの夜に吸血鬼が来なくても、KKKによる襲撃はあったと思う
吸血鬼を焚き付けたのが彼らだとまでは言わないが、行動は同じようなもので、立ち入りの許可を求めるだけ吸血鬼の方が紳士的のようにも思える
それを踏まえた上での反撃というものがあるので、このあたりの土壌はしっかりと認識しておいた方が良いのかな、と感じた
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。