劇場公開日 2025年10月24日 PROMOTION

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愚か者の身分 : 特集

2025年10月14日更新

【好きで、好きで、たまらない一作に出合いました。】
感情移入が止まらない。闇社会でもがく3人の若者は
ここから抜け出すことができるか――北村匠海×林裕太
×綾野剛の青春と絆が、愛おしくて、狂いそうになる。

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好きで好きで、愛おしくて、狂いそうになる珠玉の一本に出合いました――。


その作品とは、北村匠海×林裕太×綾野剛が共演し、第30回釜山国際映画祭のコンペティション部門に選出され、さらに3人揃って最優秀俳優賞に輝いた「愚か者の身分」(10月24日公開)だ。

本作は、アンダーグラウンドな世界を描く物語、よくある映画……では全くない。闇社会から抜け出そうともがく若者3人の生き様が愛おしくて堪らなくなり、感情が揺さぶられ……。ヒリつくムードを想定していたが、気付けば泣きたい気分になっていて、鑑賞前の予想を完全に裏切られた。

そして、とにもかくにも演技が凄まじい! この衝撃とエモーション、きっと忘れられないインパクトを残すはず――個人的に、2025年の邦画で現時点のベスト映画。気になる方は、予告編を鑑賞してみてほしい。



【予告編】生まれ変わるんだ。


筆者紹介:ドーナッツかじり(映画.com)
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●【最初に結論】壮絶な、希望の物語。
個人的に、めちゃくちゃ、むちゃくちゃに好きな映画だった――3人に思いを寄せ、“幸せ”を心の底から祈っていた。まさかこんな感情になるとは、予想もしていなかった。
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あらすじは予告編をご確認いただければと思う。本作を一言で表現するならば、「壮絶な、希望の物語」。「壮絶」と「希望」は一見、相容れないようだが、この言葉が1番しっくりくる。

「ふんわりとした光」というより、「血だらけの手で掴もうと、必死に手を伸ばす」感じで、見る者が3人の幸せを心の底から祈ってしまうような――。

繰り返すが、個人的に狂おしく好きな映画だった。ここからは、感情移入が止まらなかった5つの見どころを語っていきたい(思いがあふれ過ぎてよくわからない文章になっているかもしれません、すみません……)。


●【感情移入が止まらない①:北村匠海の激情】
“壮絶な熱演”が頭から離れない…“闇”に埋もれながらも“光”に手を伸ばすタクヤの姿に、言葉を失う、涙があふれる。
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まずは何よりも、「北村匠海の激情」に、全身を丸ごと貫かれた。演じるタクヤはSNSで女性を装い、⾝寄りのない男たちを釣り、彼らの戸籍を売買し稼いでいる。過去は明確に説明されないが、病気の弟を救うために大金が必要なようで、闇ビジネスに手を染めていく。

そんな役で、まさに北村匠海の真骨頂――クールさと親近感と滾る切実な思い――が観られる。異常な環境に身を置きながらも、弟分・マモルとバカ騒ぎをする姿は、ごく普通の若者そのもの。

一方で、闇ビジネスを淡々とこなす絶望感、それでも罪悪感を捨てきれない人間臭さなどが渾然一体となり、“ふとしたきっかけで転落した普通の人間”が、確かにそこにいるのだ。

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なかでも筆者の心を激しくとらえたのは、飲食店のガラス越しにマモルにほほ笑む、何気ないシーン。これは鑑賞後でないとうまくイメージできないかもしれないが、あえて伝えたい。後にタクヤが弟を亡くしたことが明らかになり、マモルにほほ笑んだ優しい眼差しが、“弟”に向けるものに似ていると気付いた瞬間、筆者の涙が溢れた……。

そしてネタバレを避けるため多くは語れないが、タクヤが目隠しされながらも(つまり、役者の命ともいえる目を封じられている状態でも)「泣いている」ことが分かる、本作屈指のとんでもないシーンがある。

ふたつの“眼差し”を通して、改めて、北村匠海という役者の凄味に身震いした。この“眼差し”のためだけにでも、本作を観る価値は大いにある。


●【感情移入が止まらない②:林裕太の純粋】
演技派・北村匠海&綾野剛と渡り合う“怪物的な才能”! ピュアな弟分・マモル、のぞく痛烈な過去に胸が締めつけられる…そしてこの存在感、凄まじ過ぎる。
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本作で個人的に衝撃を受けたのが、北村匠海や綾野剛といった演技派たちと渡り合う才能・林裕太だ。

演じるマモルは複雑な環境で、親の愛情を知らずに育った少年。貧困から抜け出すため、軽い気持ちで闇ビジネスに手を出すが、徐々にその闇の深さに取り込まれていく。

マモルは「こんな後輩がいたら、めちゃくちゃかわいがるだろうな~」と思える愛嬌の塊。しかし一方で、食事中にタクヤが肩を抱こうとすると、殴られると勘違いして身を竦ませる。ピュアで底抜けに明るい表情の背後にのぞく痛烈な過去――くるくると変わる“そこにしかない輝き”、その一瞬一瞬が、強烈に心に焼きついた。

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何より、観客をマモルの感情の渦に引きずり込み、全てを悟らせる林の熱演に息をのむ。新たな“怪物”が日本映画界を席巻する日が、ありありとイメージできるほどの熱量だった。

そしてもうひとつ。家族愛を知らないマモルはタクヤに“理想の兄”を見出し、タクヤはマモルに“死んだ弟の幻影”を見出したのかもしれない。

いずれにしろ、ふたりの疑似兄弟の関係性が、偽物であるがゆえに本物よりも強固な絆を生んでおり、筆者もいつしか「このふたりには、絶対に生き抜いてほしい」と、切実に思いを寄せていた。

(裏話だが実際、北村には林と同い年の弟、林には北村の兄と同い年の兄がいるという)


●【感情移入が止まらない③:綾野剛の葛藤】
色気たっぷりの横顔&ヒリつくような焦燥…とことん人間臭い“見たい綾野剛”が詰まってる!
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主要キャストのなかで最後にご紹介するのが、“いま最も見たい俳優”として編集部にもファンが多い綾野剛だ。演じるのは、タクヤの兄貴分的存在・梶谷。

元キックボクサーの梶谷は腕も立ち、裏社会を渡り歩く余裕の姿は色気たっぷり。しかし一方で、組織に追い詰められるギリギリの表情を見せ、ある決断に葛藤する姿がとことん人間臭い。

余裕たっぷりの綾野剛も最高だし、とんでもない目にあっている綾野剛も最高だ。「愚か者の身分」はまさに、2種類の“見たい綾野剛”が1本で味わえる、「一度で二度おいしい」最高の作品なのだ。

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北村が「綾野剛さん(梶谷)から僕(タクヤ)へ、そして僕から林裕太くん(マモル)へと、役者(役)が『次の世代へ“生きる”を授ける』構造になっている」と語る通り、劇中での3人の関係はどこか、実際の俳優同士の関係と重なる。

だからこそ、それぞれが交わす言葉や眼差しには、“役を超えた感情”が宿っていると感じられ、3人の演技合戦がより一層、筆者の胸を熱くさせた。物語上の絆の厚さと俳優陣の芝居の熱さが高次元で噛み合っている、こんな作品と出合えることは、滅多にない。それゆえ評価が非常に高く、第30回釜山国際映画祭の最優秀俳優賞に輝いたことは必然と言えるだろう。

また撮影の裏話だが、北村曰く、綾野は台本に書いていないことを、ぶつぶつと呟く演技をしていたそう。そうした瞬発的なアプローチが、3人の逃走劇の臨場感やリアリティを極限まで高めている。


●【感情移入が止まらない④:物語展開がすごすぎる】
視点の切り替え×時系列シャッフル――ギミック感満載、だけど分かりやすくてスリリング! 日本アカデミー賞受賞「ある男」の向井康介らが創出した、珠玉の脚本に浸った。
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本作を「素晴らしい」と感じたさらなる理由は、「3人の視点の切り替え」「時系列シャッフル」を掛け合わせ、ギミック満載ながらも分かりやすいストーリーになっている点だ。

視点の切り替えと時系列シャッフルは、やり過ぎると物語が複雑化したり、観客の没入を削いだりする“諸刃の剣”。しかし本作は単なる“ユニークな見せ方”に留まらない、観客が登場人物たちの感情に深く寄り添える最適な装置になっている。

見れば見るほど、観客が水面下に隠された感情や真実に気付く、重層的な物語に唸った。鑑賞中、筆者も「先入観やイメージが砕かれ、気付く」経験を重ね、どこまでも物語の深奥に潜り込んでいくような感覚になった。

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全編にわたり技巧が冴え渡っている作品だが、それもそのはず。脚本を手がけたのは、向井康介。「ある男」で第46回日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を獲得し、北村が破滅へと向かう公務員を演じた「悪い夏」でも知られる名手だ。

そして監督は、「Little DJ 小さな恋の物語」の永田琴が務め、淡く繊細なルックを、壮絶な展開と融合させ、得も言われぬ映像体験を生みだしている。

出演者、脚本、監督、そしてあらゆる技術が化学反応を起こした本作に、筆者は最初から最後まで陶酔しきりだった。可能な限り良い映画を観たい人は、この「愚か者の身分」をぜひ選んでみてほしい、きっと損はしないはずだ。


●【感情移入が止まらない⑤:メッセージが刺さる】
どす黒い裏社会にいるからこそ輝く3人の絆、普通の生活への渇望… 「失うものなど何もない」3人が、それでも生きようとする姿が尊い
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映画が終盤に差し掛かり、結末の余韻に浸りながら、鑑賞後もずっと、3人のことを考えずにはいられなかった。

「失うものなど何もない」と割り切っていたはずの3人が、「うまくやること」を捨てて、自分が本当に信じるもの・守りたいもののために決断し、生きようとする姿が、この上なく尊い。3人はある意味、裏切りや罠に満ちた裏社会を生きるには不器用で、真っ直ぐ過ぎる。ゆえに強い輝きを放ち、ゆえにやるせなく、はかないのだ。

北村は「彼らがやっていることは決して褒められたものではないが、それでも生きる。生きるって、今平和に生きられてしまっている僕たちが忘れている感情なのかなと思った」、林は「僕は誰かに託された命ならば、死んでる場合じゃなくて精一杯生きるしかないんだと感じました」と語っている。

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その言葉通り、筆者にとっては、全編にみなぎる、とてつもない生のエネルギーに圧倒される映画体験だった。彼らがどす黒い裏社会にいるからこそ、そこで結んだ絆や、普通の生活への希望が、より一層きらきらと輝いて、脳裏から消えなかった。裏切られ続けても、人はまた何かを信じることができる。そして守るべきもののために、人間はここまで強くなれるのか――。

大げさな表現になってしまうが、3人に“信じること”の強さを改めて見せつけられ、「この世界って、まだまだ捨てたもんじゃないな」という感動で、体の内部の“震え”が、いつまでもやまなかった。

裏社会・アンダーグラウンドのジャンルでは、「裏切り者には死を」が鉄則だが、果たしてこの3人の逃亡劇は一体どうなるのか? はかり知れない人間の“強さ”をぜひ劇場で、自分の目で確かめてほしい。


●【最後に】
細かすぎて伝わらないかも、けれど狂おしいほど好きな“ディテール”が多すぎる。やけにガタイがいい矢本悠馬、忘れられない不穏なカメラワーク、牛乳の賞味期限…
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と、もう少しだけ「よかったポイント」を書かせてほしい……。

細か過ぎる“好きなシーン”をご紹介したい。ひとつでも「このシーン、見たい!」と心に引っかかるものがある方は、ぜひ劇場へ。そして本編を鑑賞した方にも、ディテールの数々を通して、物語を振り返ってほしい。

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とにかく本編を見てほしい! そして思う存分、語り合ってほしい――!


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