「配役が絶妙で、言葉選びも楽しくて、母親に潜む妹属性が素晴らしかった」兄を持ち運べるサイズに Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
配役が絶妙で、言葉選びも楽しくて、母親に潜む妹属性が素晴らしかった
2025.12.3 TOHOシネマズくずはモール
2025年の日本映画(127分、G)
原作は村井理子のエッセイ『兄の終い』
疎遠だった兄の死によって、後始末をする妹と元嫁たちを描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は中野量太
物語は、滋賀県大津市にて、在宅でエッセイを執筆している理子(柴咲コウ、幼少期:高木悠叶)のもとに、宮城県の刑事・山下(吹越満)から一本の電話が入るところから紡がれる
それは「兄(オダギリジョー、幼少期:味元耀大)が亡くなったので、遺体の引き取りをお願いしたい」というものだった
兄は何度か結婚していたが、最後の妻・加奈子(満島ひかり)とも離婚していて、父(足立智充)も母(村川絵梨)もすでに他界していた
唯一の肉親である理子はそれをせざるを得なくなり、一路、宮城県へと向かった
そこには、元妻の加奈子と兄との間に授かった中学生の満里奈(青山姫乃)がいて、三人で兄の後始末をすることになる
また、兄と加奈子の間にはもう一人の息子・良一(味元耀大)がいて、彼は兄が引き取って育てていた
今は児童相談所に保護されていると言われ、近々誰が面倒を見るのかを面談にて決めなければならなかった
物語は、兄が生前に住んでいた家の後始末をする様子が描かれ、そんな中で理子はかつての兄を想起していく
幼少期の頃は、母は兄を溺愛していて、その感情は「兄がいなくなれば良い」と言うものになっていた
兄は元々不思議な感覚を持っている男で、ある意味自由な人でもあった
だが、成人してからも兄は理子に迷惑をかけまくり、その印象が良くなることはなかった
それでも、死の2日前に届いたメールを読まなかったことが、理子に後悔の念を植え付けていたのである
映画は、兄の幼少期と良一を同じ俳優が演じると言う構成になっていて、冒頭は良一(大野遥斗)が受験勉強をしているシーンから始まっている
そこで良一は5年前に渡された理子のエッセイを読むことになり、映画本編は「理子のエッセイを良一が脳内変換している」とも言える
そして、理子が思い描いた父親像を見ていく中で、良一自身が知らない父親と言うものを知って行く流れになっている
エッセイの中では、理子が知らない兄が描かれているものの、そこに書かれている多くのことを良一は知らない
そこには、別れて暮らしてきた母親の気持ちも綴られていて、そういった部分を読むのが怖かったのかもしれない
エッセイの冒頭には「支えであり、呪縛ではない」という理子の言葉が綴られていて、それが映画本編を見る中で印象が変わる構成になっていた
兄に裏切られ続けてきた理子は、まさしく呪縛の中にいたのだが、嘘だと思ってきたことの多くは理子のフィルターを通した思い込みであり、優しかった兄のことを思い出すまでに時間を要している
映画には、「理子は冷たいけれど、兄は優しい」という母の言葉が登場し、その優しさとは何だったのかが描かれていく
それでも、「お金がなくても幸せ」を否定する加奈子の言葉は重く、親として為すべきことの難しさというものも伝わってくる
夫婦の難しさ、配慮の果てにある孤独というものがあって、妹のまま家族のもとに帰ってきた理子はとても可愛いなと思った
いずれにせよ、タイトルが秀逸な作品で、言葉選びに意外性があるのは良かった
理子の幼少期の本音が出るシーンとか、良一が語る後悔などがそれぞれのキャラクターの中にある別の視点の思考というのも興味深かったと思う
それぞれから見える人物像は大きく違っていて、それが人間というものなのだが、いかに自分本位で見ることしかできないのかを突きつけられる側面もある
映画は、理子の視点で兄の新発見をして行くのだが、そこに自分の思い込みで断罪したものも加わってくる
それが彼が遺し育てた良一を通じて知って行く部分があって、それが本作の魅力なのかな、と感じた
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