見所は端的に言うとジャンヌ・グルソーのパフォーマンスだろう。
彼女は訓練されたエージェントとしての鋭利なアクションスキルと、
役柄の複雑な内面を巧みに表現する堅実な芝居とを完全に両立させている。
とりわけ、
息詰まる緊迫感の中で繰り広げられる1対1の格闘シーンは、
単なる暴力の応酬ではない。
それは、彼女の身体能力と、
極限状況下で滲み出る感情が見事に結実した、
紛れもない表現行為としてのパフォーマンスである。
一つ一つの動き、表情の変化、息遣いまでが、
キャラクターの意志と苦悩を雄弁に物語っているので、
強い説得力をもたらす。
在独米領事館という閉鎖された高セキュリティの施設は、
物理的な逃げ場がない絶望的な状況を創出し主人公を追い詰める。
しかし、訓練された主人公は、
その場にある限られたリソースと、
研ぎ澄まされたアイデアを駆使して状況を打開していく。
この「制限された空間での知性と身体能力による突破」という構図は、
アクション作品の古典的なテーマでもある。
確かに、物語の進行においては、
大胆とも言える設定の飛躍が見られるかもしれないが、
セリフ回しでギリギリ単なる状況説明に終始することなく、
全体のダイナミズムで些細な点として飲み込まれてしまう。
主人公のキャラクター造形もまた、
屈強なエージェントであると同時に、
子育てをしながら、深いPTSDに苦しんでいる。
この複数の側面を持つ設定も、
一見すると既視感があるかもしれない。
しかし、その多層的な演技は、
「ホームランド」のキャリー・マティソンを彷彿とさせる、
生身の人間が抱える脆さと強さ、
その相克を見事に描写している。
余談ではあるが、
敵を一時的に無力化するために用いられる多様な手法は、
ハンカチに薬剤、延髄チョップ、
注射器、頸動脈絞めなど、
流行は循環しているようだ。