「ある種の問題をはらみながら、当時の時代を映した現在にも通じる秀作!」ルノワール komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
ある種の問題をはらみながら、当時の時代を映した現在にも通じる秀作!
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作の映画『ルノワール』を大変面白く観て、秀作だと思われました。
今作の時代は1980年代後半であって、映画を観るにつれてその時代性は明らかになって行きます。
そして今作の特徴は、1980年代後半の時代背景もあり、エロスと死をオカルトで繋ぐ構成になっていたと思われます。
映画の中盤で、11歳の主人公・沖田フキ(鈴木唯さん)が知り合った、北久理子(河合優実さん)の夫が、幼児性愛にも通じるビデオ編集テープを持っていて、それを北久理子が追求したすぐ後に、鍵がかかったアパートの自宅へ、ベランダから入ろうとして誤って転落死したというエピソードが語られます。
また、映画の終盤では、伝言ダイヤルで知り合った明らかに少女性愛者と伝わる大学生・濱野薫(坂東龍汰さん)に危うい目に遭いかけます。
この、主人公・沖田フキが知り合った北久理子の夫が幼児性愛に通じるビデオテープを持っていてその後に転落死するエピソードも、主人公・沖田フキが伝言ダイアルで知り合った少女性愛者に危うい目に遭うシーンも、相当リスキーなエロス描写に思われながら、エロスと死にまつわる話がここで語られていたと思われます。
そして、このリスキーなエロス描写は、一方で、少女や女性が、男性からの病的で危険な性被害に常に晒されているとの、率直でリアルな表現だったとも言えます。
主人公・沖田フキの父・沖田圭司(リリー・フランキーさん)は、末期ガンで死に直面しています。
しかし主人公・沖田フキの母・沖田詩子(石田ひかりさん)は、夫の沖田圭司に対して殺伐とした対応しかしていません。
極めつけが、母・沖田詩子が、夫の死のために用意して掛けられていた喪服を、父・沖田圭司が見つけてしまう場面です。
ここでも終始、死にまつわる(ドライな)描写が続いています。
そして、これらのエロスと死を、オカルトで今作は繋いでいたと思われるのです。
夫の幼児性愛にも通じるビデオ編集テープを責め立て、夫を転落死で失った北久理子に対しても、主人公・沖田フキはオカルト儀式的な催眠術をしたりしています。
また主人公・沖田フキは、末期ガンで入院している父・沖田圭司の病床で、エスパーカード当てを楽しんでいました。
今作の映画『ルノワール』は、リスキーなエロス描写もありながら、死に対するドライな眼差しがあったと思われます。
だからこそ、心は満たされず、深淵に落ちる心情を、オカルト的な空気が救っていたとも思われるのです。
この1980年代後半の後に現実の日本では、バブルが崩壊し、オカルトブームはその後、オウム真理教によるサリンテロ事件によって事実上の終焉を迎えたと思われます。
その意味で今作は、その後の未来を暗示させる、不穏な(リスキーなエロス描写など)問題ある、しかしエロスと死をリアルに描いた秀作になっていたと、僭越思われました。
しかし一方で、現在でも心は満たされず、深淵に落ちる人々の心情は溢れていて、リスキーなエロスや、捨て置かれるドライな死に関する問題は、そこかしこに噴出しています。
そのリスキーなエロスとドライな死の、間を繋ぎ救う、当時のオカルトに変わる現在への解答が示された、(今作の早川千絵 監督・脚本の映画『PLAN 75』のように)現在の物語として描かれた作品であれば、傑作になったのに、との無い物ねだりも鑑賞後に個人的にはありました。
しかしながら、(こちらは両親の離婚という別の内容ですが)傑作・相米信二監督の映画『お引越し』とのオマージュも感じさせながら、問題内容もまとった秀作として、個人的にも面白く深く今作を鑑賞しました。
