「主人公フキが、心地よく愛おしく刺さった」ルノワール Toruさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公フキが、心地よく愛おしく刺さった
1987年頃の岐阜を舞台に、闘病中の父と仕事に追われる母と3人で暮らす少女フキ、感受性と想像力豊かな彼女が、それぞれに事情を抱えた大人たちと関わり合う姿を描いた作品。
起承転結で物語性のあるドラマではなく、日々様々なことに出会い感じるフキ、その繊細かつ奔放で、怖いもの知らずな姿をひたすら追いかける展開。
それぞれのエピソードが、オトナの世界では現実的であり、その滑稽さをとても上手に描いている。
フキは、映画「お引越し」の主人公レンコ、「こちらあみこ」の主人公あみこをも彷彿とさせるが、感受性・想像力豊か、そして知的で自分を失わないフキ、観る側として多少の危うさを感じつつも、その姿を頼もしく思って見てしまう。
制作に海外の血が入っていることもあり、一般的な邦画とは異なる世界観。1987年の世相、流行、テレビ報道などがうまく描かれ、その心地よい空気感が、抜群のカメラワーク、小道具を含めた演出、巧みな音楽の使い方で描かれる。その高いプロダクションバリューもあって、終始スクリーンに引き込まれる。
オーディションで選ばれたサキを演じる鈴木唯は、撮影当時11歳とのことだが、その素晴らしい演技に魅了された。
母親役石田ひかり、父親役リリー・フランキーら助演した役者たちも味のある演技で、いい味を出しており、その他のキャスティングも冴えている。
物語性のない映画ゆえ、感じ方も人それぞれ。万人向けではないが、フキと同じひとりっ子として育ち、大人を見ながら色々と感じた自分の少年時代とも被り、愛おしくそして鋭く迫ってきたインディペンデント映画。
世間の評価はさて置き、個人的には今年刺さった映画のひとつ。
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