「幅広い世代に共感と、中高年にはノスタルジーも」ルノワール 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
幅広い世代に共感と、中高年にはノスタルジーも
本作については当サイトの新作評論枠に寄稿したので、ここでは補足的な事柄をいくつか書いてみたい。
評で紹介したように、早川千絵監督は「ルノワール」を作るうえで影響を受けた映画として、ビクトル・エリセ監督作「ミツバチのささやき」、相米慎二監督作「お引越し」、エドワード・ヤン監督作「ヤンヤン 夏の想い出」の3本を挙げた。プロットを引用したり演出を参考にしたりした、いわゆる元ネタを明かすのは作り手としての誠実さが表れているように思う。
と同時に、2014年の短編「ナイアガラ」がカンヌのシネフォンダシオン部門(次世代の国際的な映画制作者を支援する目的で、各国の映画学校から出品された短編・中編を毎年15~20本選出)に入選、長編初監督作「PLAN 75」がカンヌ「ある視点」部門でカメラドール(新人監督賞)の次点と、すでにカンヌからの覚えめでたい早川監督が国際映画祭の“傾向と対策”をしっかり実践していることを示唆してもいる。「ヤンヤン~」はカンヌで監督賞、「お引越し」もカンヌの「ある視点」部門招待、「ミツバチのささやき」はシカゴやサン・セバスティアンなど複数の国際映画祭で入賞。つまり、「幼い子供が大人の世界を垣間見て、少し成長する」筋の映画は、世界の映画人から愛され、評価されやすい傾向があると言える。そうした過去作の引用を散りばめることは、それら名作のシーンを思い出す点でノスタルジーを補強する効果も見込める。
もちろん1980年代を知る日本の観客なら、当時の出来事や流行を単純に懐かしく感じると同時に、その後に起こるバブル崩壊、オウム真理教が起こした一連の事件、1995年の阪神淡路大震災などを連想して、複雑な思いを募らせるかもしれない。ただしそうした時代背景を知らずとも、誰しも通ってきた幼い頃を思い出させてくれる普遍的な情感に満ちており、共感を呼ぶポイントがいくつもあるはず。
評の最後では鈴木唯について、「願わくばその野生馬のようにしなやかな個性と魅力を保ちつつ、女優として大成することを心から期待する」と書いた。早川監督にもぜひ、鈴木唯の成長の折にふれ、たとえば5年後とか、10年後とかにまたタッグを組んでほしい。フキのその後を描く続編の企画なら最高と個人的には夢想するが、まったく別のキャラクターで作るとしてもそれはそれで可能性が広がって面白い映画が期待できそうだ。
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