劇場公開日 2025年6月20日

「早川メソッド」ルノワール TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5早川メソッド

2025年6月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

長編初監督作品『PLAN 75』で一躍注目されることとなった早川千絵監督。当然観逃すわけにはいかず、109シネマズ木場にて鑑賞です。
本作の舞台は1980年代後半。撮影監督を務める浦田秀穂氏の手によって撮られた画は、空気感まで含めてその時代を思い出すようなルックで、全く違和感を感じません。また、インターネットは勿論のこと携帯電話もまだ家庭用に普及してなかったあの頃、家電(Not カデン but イエデン)は大変に重要なツール。本作においても「浄水器の営業電話」や「伝言ダイヤル(Not 災害用 but マッチング用)」など危なっかしさ満点な「いにしえの用途」で活躍しています。
鑑賞前、何度かトレーラーを観ていたはずなのに、本編が始まってすぐ「え、そんな話?」と驚きの展開。妥協のない冒頭シーン、引っかかったのは私だけじゃないのでは。そして、淡々とした作文発表を終え、オーディエンスの反応に満足げな表情を見せる本作の主人公・11歳の沖田フキ(鈴木唯)に透かさず魅了されます。いやはやこの導入、やはり油断禁物な早川監督作品。
未知のものに対する好奇心が強いフキは、目下、「どうやら父・圭司(リリー・フランキー)の死が近いらしい」という状況にあって、初めて死生観というものに向き合っています。父を喪うことになかなか実感を持てませんが、「一人っ子で鍵っ子」の彼女は得意の独壇場において好奇心を発揮しながら、常に「信じられるものや人」に対する見極めに真剣です。そして、超能力(マジック)やおまじないなどのスピリチュアルに対する信頼や、彼女にだけ見えているものなど、時に現実離れすることもあるフキですが、唯一、父だけは言葉も無用にフキの全てを理解してくれる絶対的な存在。物語の後半に起きる「フキ最大のピンチ」とそこに「現れる」父、、、このシーンは是非ご自身で観て感じてください。
一方、母・詩子(石田ひかり)は仕事、看護、子育て、そして将来のことなど、一気に圧し掛かる負担と不安に情緒を崩しそうになりつつも、常に強い気持ちで立ち向かっています。それでも、真面目で「逃げたり、溺れたり」が出来ない彼女だって、やはり何かにすがりたい。職場での行き違いがきっかけで参加した研修における、マインドセラピーと親身になってくれるいい男。からの、路上占い師の言葉にふらついたりとやはり一人の女性です。ですがここでも、母の様子を察するフキのファインプレー(?)が飛び出して思わぬ展開に。
と言うことで、およそ半年の内に家族に起こる色々、11歳の少女には大きすぎる変化と経験ですが、小旅行から帰る母と娘が向かい合うラストシーン。母へ「強く信じられるもの」を感じるフキの表情に、思わず落涙しそうになりました。
全般通して観れば、概ねは淡々としたシーンが多くて派手さこそありませんが、時折に、ここぞとばかりの「強いメッセージ」があって思わず動揺。ですが、この不意に胸を衝く感じこそ正に「早川メソッド」なのかもしれません。今作もすっかりやられました。

TWDera
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