「母が最後に遺したのは、自分らしくいられるために必要なもの(お金、叫び)だったのだろう」KIDDO キドー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
母が最後に遺したのは、自分らしくいられるために必要なもの(お金、叫び)だったのだろう
2025.4.23 字幕 京都シネマ
2023年のオランダ映画(91分、PG12)
訳あり母親と施設で育てられた娘が祖母の家に向かう様子を描いたロードムービー
監督はサラ・ドビンガー
脚本はネーナ・ファン・ドリル&サラ・ドビンガー
原題の『Kiddo』は、「親しみを込めて子どもを呼ぶときの言葉」で、劇中では「お嬢ちゃん」「ルー」と訳されていた
物語の舞台は、オランダのとある児童施設
そこには11歳になる少女ルー(ローザ・ファン・レーウェン)がいて、養母ヘニー(アイサ・ウィンター)は、ルーの母カリーナ(フリーダ・バーンハード)からの電話を受けていた
どうやら明日の朝8時に迎えにくるという知らせで、それによってルーは浮き足だってしまう
だが、約束の時間が過ぎても来ず一日が終わってしまう
翌日にはみんなで海に遊びに行くことになっていたが、ルーは「行きたくない」と言って一人で施設に残った
物語は、その後カリーナがひょこっとやってきて、ルーを連れ出す様子が描かれていく
少しどこかに行くだけと思っていたルーだったが、実は祖母(Izabela Pogonowska)のいるポーランドに行くために「誘拐」されていたことがわかる
誘拐は大袈裟だが、規定違反を犯していることになり、ルーは秘密裏にヘニーに連絡を取っていた
だが、それを告白すると置いてけぼりを喰らうようになり、ルーも携帯を捨てて、母と一緒に行動を共にすることになったのである
映画は、このイカれた母娘の道中を描き、それが最後の母娘の時間であることを示していく
劇中では明言されていないが、おそらくカリーナは何らかの罪によって投獄されていて、捕まる前に実家に金を隠したのだと思う
それをルーに届ける必要があり、文字通り「逃亡者」としてどこかに消えてしまう
映画に登場する爆竹少年グジェゴシュ(マクシミリアン・ルドニツキ)は「ボニーとクライドは最後は死んじゃうよ」と言うものの、カリーナはルーだけは死なない世界線に置いていくことを考えていた
カリーナは最後に親らしいこと、娘らしいことをしたいと思っていて、今回がそのラストチャンスだったのだと思う
実家に母がいると思っていたカリーナだったが、実際にはすでに亡くなっていて、いとこ(リディア・サドウカ)からは連絡すらなかった
それは、カリーナが一族の恥であると考えられていたからであり、そこにも「ボニー&クライド」の引用があったのかな、と思った
いずれにせよ、6つくらいの章立てになっていたが、それらは全て劇中のセリフだったように思う
覚えているところだと「Eat and Run(食い逃げ)」とか、「Money and Run(お金を持って逃げる)」のように、要所に「Run(逃げる)」と言う文字があったように思う
そして「Crazy」が転換となって、ラストは「Home」に戻ることになるのだが、印象的だったのは「一日一回叫ばないとおかしくなる」と言うカリーナの習慣だろう
最終的にはルーも叫ぶようになっていて、これが彼女たちが普通でいられるための方策なのだと思う
現代の都会では叫べるところが少ないが、合法的なところだとカラオケボックスとか、車で走りながらと言うところだろうか
やってみるとわかるのだが、ストレスの発散には良いと思うので、普段大声を発せずにうちにこもっている人ほど、自分の中にあるものを外に出すと言う習慣をつけても良いのかな、と感じた
いずれにせよ、オランダの映画なのであまり情報がなく、ショートフィルムにも同じタイトルの作品があるので混同しやすい
ロードムービーとしての風景の移り変わりは分かりにくいが、脇で登場する人たちは個性的なキャラが多いので面白い
火薬少年も面白いが、ポーランドのレストランで「あいつはサイコキラー」とか、「火星人のコスプレしてそう」とか、「恐ろしい魔女」などのようにアテレコしていくのも楽しかった
ルーは最後に恐ろしい魔女に銃を撃つフリをしていたが、こういう細かなところにルーの変化が描かれていたので凄いなあと思った