「炎上で回復した「家族の絆」。」俺ではない炎上 ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)
炎上で回復した「家族の絆」。
SNSで突然身に覚えのない殺人犯にされてしまったかわいそうな男の話である。最初は余裕で「自分は関係ない」と言っていたが、会社からは迷惑だから出社するなと言われ、警察からは迷惑な人としてぞんざいに扱われ、世間からは殺人犯として非難の的になり、追い詰められて逃げ出してしまう。自信満々だった男が転落していく姿を、阿部寛が何とも滑稽で哀れさを感じさせる演技で楽しませてくれる。
SNSでの炎上をテーマにしているが、その描き方はとても戯画化(カリカチュアライズ)されているようだ。現実にはこんなにひどくはないだろうが、実際ネットの中では個人情報をすぐに特定する探偵もどきや、自分で捕まえてやるという自警団、目撃情報を逐一報告するモニター達であふれている。あやふやな情報であっという間に犯人確定となり、それに反する情報は排除されてしまう。炎上に参加するのはごく一部の考えの浅い人であり、大半は理性的で客観的であるという指摘もあるが、炎上が大きな影響力を持つのも事実である。このくらい単純化して描いた方がネットの危うさが伝わりやすいと思う。
この映画は、SNSの危険性に目を向けさせることを意図したものではない。そんなことは既に誰もが知っていて、それでも改まらないのが人間の本姓である。むしろこの現代的な騒動を通して浮かび上がる人間ドラマを描こうとした印象が強い。主人公泰介が部下から「あなたは人から恨みを買いやすい」と言われる場面が転換点になっている。自信家で、誰からも好かれているとうぬぼれていた泰介には大きなショックであった。そのおかげで自分を省みることができて、妻や娘との関係を修復できた。妻と娘も自身の問題を泰介のせいにして避けてきたが、素直に向き合えるようになった。この家族の絆は物語の重要な部分であるが、少し描き方が弱かったように感じた。泰介の逃走劇の割合が大きいので、家族劇を深く描き切れなかった印象だ。
