太陽(ティダ)の運命

劇場公開日:2025年4月19日

解説・あらすじ

「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」の佐古忠彦監督が、それぞれ国と激しく対峙した2人の沖縄県知事の姿を通して、沖縄現代史に切り込んだドキュメンタリー。

沖縄本土復帰後の第4代知事・大田昌秀(任期1990~98年)と第7代知事・翁長雄志(任期2014~18年)は、政治的立場は正反対でありながらも、ともに県民から幅広い支持を集め、保革にとらわれず県政を運営した。大田は1995年に軍用地強制使用の代理署名拒否、翁長は2015年に辺野古埋め立て承認の取り消しを巡って国と法廷で争い、民主主義や地方自治のあり方、そして国の矛盾を浮き彫りにした。

彼らの人生に関わった多くの人々の証言を交えながら、その人間的な魅力にも光を当て、それぞれの信念に生きた2人の不屈の闘いを描きだす。タイトルの「ティダ」は沖縄の方言で太陽の意味で、古くは首長=リーダーを表した言葉。

2025年製作/129分/G/日本
配給:インターフィルム
劇場公開日:2025年4月19日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

監督
佐古忠彦
プロデューサー
小濱裕
嘉陽順
嘉手納央揮
米田浩一郎
松田崇裕
津村有紀
撮影
福田安美
音声
町田英史
編集
庄子尚慶
語り
山根基世
音楽
兼松衆
阿部玲子
澤田佳歩
佐久間奏
栗原真葉
三木深
選曲
御園雅也
サウンドデザイン
御園雅也
音楽制作プロデューサー
水田大介
音響効果
田久保貴昭
テーマ曲
比嘉恒敏
劇中歌歌唱
でいご娘
エンディングテーマ演奏
辺土名直子
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フォトギャラリー

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(C)2025 映画「太陽の運命」製作委員会

映画レビュー

5.0切実な1%と無関心な99%

2025年7月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

「沖縄に行くと日本が見える」という筑紫哲也の言葉から、沖縄の取材にはまり込む事になったTBS報道局の佐古忠彦監督が、琉球放送とともに、大田昌秀、翁長雄志という2人の知事の姿を通して、今に続く沖縄の現代史を描いたドキュメンタリー作品。
監督のアフタートーク付き上映で鑑賞。
(今日は、本館の方は、face to aceの浴衣祭り2025のライブのため、トラゥム・ライゼの方で)

沖縄取材歴30年というだけあって、佐古監督が生前の両知事に直接取材を重ねた取材記録と、琉球放送に残された膨大なニュース映像のアーカイブ、そして両知事に関係する人々の証言から構成された重厚さで、沖縄が何と戦ってきて、何を背負わされ続けてきたのかを描き出す。

革新系だった大田昌秀第4代知事と、もとは自民党の保守本流にいた翁長雄志第7代知事。
イデオロギー的には正反対の、県議会でバチバチにやり合った2人だが、結果的にはどちらもオール沖縄の中心となって、同じような言葉を語るようになっていくところに、2人の沖縄県知事としての責任感が伝わってくる。

他の方も書かれていたのを目にしたが、佐古監督のアフタートークでは、県議会の場で、大田知事に「沖縄の知事なら、ウイスキーではなく泡盛を飲むべきだ」と迫ったというエピソードが紹介された。そこまで揚げ足を取るような攻撃をしてきた翁長氏に対して、個人的には許せない気持ちがあっても、知事となってからの取組にはエールを送ったという大田氏にウルっときた。

この映画、様々な論点があるのだが、自分が最も考えさせられたのは、「多数決」についてだった。
大田知事が、筑紫哲也を交えて、岡本行夫氏と対談する場面で、「1人の命も100人の命も重さは変わらない」という大田氏に対して、岡本氏は「いや、より多くの命をいかに救うかを考えるのが政治だ」と返す場面があった。
確かに岡本氏の言うことはもっともだが、大田氏が言いたかったのは「“100人のためにお前1人が犠牲になれ”ということを、正しいと思っているのか?」ということだろう。
人口比1%の沖縄は、ずっと防衛の最前線を担わされ続け、基地問題に関わる人道的なトラブルにも晒され続けてきた。
その切実な1%と、無関心の99%が一緒に行う多数決の結果は、真に民主的な「民意」と言えるのだろうか。
それが、この映画で自分が最も考えさせられたことだった。

今も続く基地問題と沖縄に影を落とす日米地位協定の問題は、関係ないと思う人には、全く関係ない話であり、それはそのまま、あらゆるマイノリティや、あらゆる人権の話にもつながる。

もうしばらくで、参院選となる。
歴史ある既成政党が苦戦し、華々しく見える新成保守政党が大躍進の気配だ。
トランプの躍進同様に、「保守」と呼ばれる層の中から、ルールを破壊するような「革命的な行動」を起こすことを期待させる一団が生まれ、人々の差別的な感覚に働きかけて、爽快感と誤認させるような振る舞いで支持を得る風潮が、日本でもいよいよ強まったということだろう。
対して「革新」と呼ばれる政党は、例えば、未だに実現していない憲法の公正公平な理念を守り抜こうと訴えると、それは表面的には、逆に何も変わらない振る舞いに人々には映り、それがどんなに自分たちを守ることにつながっていこうとも、人々の支持が得られなくなっていく結果が透けて見える。

こうした選挙に象徴されるように、ある意味、民主主義の中で多数決は絶対だ。
それでも、やはり、「より民主的な多数決」のためには、切実な1%の声を聞き合うことが大切だと、本作を観て改めて思った。

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sow_miya

4.5沖縄だけの問題ではない

2025年6月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

1972年の本土復帰後に在任した8人の沖縄県知事のうち、主として第4代の大田昌秀知事(任期1990~98年)と第7代の翁長雄志知事(任期2014~18年)の言動を追い、第5代の稲嶺惠一知事らのインタビューを交えながら描き、現代まで続く沖縄の問題の根源に迫る優れたドキュメンタリー。

県議会では政敵として激しく対立していた大田・翁長の両氏が、いつの間にか知事として同じ問題に悩まされ、次第に同じような言動を行うようになっていく(特に翁長の)変容の過程が非常に興味深い。

しかもその変容は、イディオロギーや政党の問題ではなく、沖縄が日本という国からどのように見なされ、扱われてきたか、そしてそれに対してウチナンチュがどのように感じてきたのかということに起因していることがよく分かる。

辺野古の問題は同時代を生きてきてリアルタイムでニュースも見てきたはずなのだが、今回このような形で時系列を整理してもらえると、いかに自分の知識が断片的だったかが実感できた。

沖縄問題に矮小化せずに、日本の国の制度のあり方とは?地方自治とは?民主主義とは?という大きな視点で物事を捉えて考えるためにも、多くの人、特に若者たちに、観て欲しいと心から思う。

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Tofu

4.5沖縄問題を理解するうえで最善のドキュメント」

2025年6月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

知的

難しい

沖縄の基地問題は現在進行形。先日も某自民党参議院議員の沖縄問題に関する発言で沖縄選出議員らの反発があった。歴史問題も含め基地問題もまだまだ解決できない。どうなるだろうか?さて、本題。この作品が完成されても沖縄問題が続いている。この作品でも登場した大田氏や翁長氏は考えの違いがあっても沖縄問題を何とかして解決したい。この思いは伝わってきた。二人の対比も見事に描いていた。翁長氏や大田氏の言葉は一言が重い。しかし、いつまでたっても沖縄問題が解決できないのラストの翁長氏やインタヴューに出た前泊氏の発言がすべてであろう。作品としては物凄くわかりやすかったし沖縄問題を理解するうえでの欠かせないバイブルになりそうだ。

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ナベウーロンティー

5.0問われているのは我々の民主主義、地方自治である。

2025年5月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

RBC琉球放送とTBSの制作による優れたドキュメンタリー映画である。129分という長尺ではあるがしっかりと細部まで練り込まれ山根基世さんのナレーションも安定感がある。
タイトルの「太陽(ティーダ)」は沖縄ではリーダーの意味もあるようで本土返還後の知事たちの姿を描く。とはいえ普天間基地問題が主題となるので前半は4代目知事の大田昌秀、後半は7代目知事の翁長雄志の姿が中心となる。(8人の知事のなかでは最も実務家であったと思われる稲嶺恵一がたびたび登場して客観的なコメントを述べるところが面白い)
大田と翁長は政敵というべき関係であったが、最終的には辺野古基地の建設反対という共通の立場にたっていく。これはもちろん艦砲射撃、地上戦という戦争体験が原点にあり、土地の強制収用、米軍による後を絶たない事故や犯罪、環境汚染などを受けた県民の民意を反映したものである。
映画を観ていて感じたのは、大田が知事だった1990年代と、翁長が知事だった2010年代では明らかに国政も本土の世論も変容しているということである。劣化しているといって良い。
国政でいえば、大田の時代の橋本総理や野中官房長官は現実をみつめ沖縄の気持ちを汲んで妥協点を見いだそうと努力をしていたが、翁長の時代の国政担当者たちは「辺野古は唯一の解決策」との見解を機械的に繰り返し埋め立てを「粛々と」進めるだけであり話し合い自体が成り立っていない印象が強い。また沖縄を除く世論もSNSを中心に辺野古埋め立てに反対するものは極左、反日であるとの言説が目立つようになってきている。そこまでいかないにしても沖縄県による工事差し止めの手段が全て封じられてしまった今、既に終わった問題として捉えている者もいる。
沖縄は日本である。沖縄の民意が損なわれている、そして沖縄の地方自治が顧みられないということは、日本の民主主義ないしは主権が損なわれていることになる。これは現在もなんら問題としては変わっておらず存在している。自明の事実ではあるがこの映画はそこを徹底的に見せてくれた。

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あんちゃん