劇場公開日 2025年6月13日

「大恋愛以上に奇跡的な出会い。」ラブ・イン・ザ・ビッグシティ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 大恋愛以上に奇跡的な出会い。

2025年8月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

個性的な男女の友情をコミカルかつ温かく描いた佳作。
誰もが、多かれ少なかれ何かを他人に隠して生きている。
誰もが、どこかで我慢して他人に合わせて生きている。
なんでもさらけ出せとも、他人に合わせるなとも思わないが、窮屈な思いを抱えながら暮らしている人にとって、自分の個性を受け入れてくれる友人と出会えるということは幸せなことなのだと思う。
きっと、そんな友情は身を挺してでも守るべきものになるだろう。

この映画は、オープニングと本編の構成が決定的に上手い。
ウェディングドレス姿でタバコを吸う女、彼女を探しに来た男、二人は手首にタトゥーでイニシャルを刻んでいる。
そして、二人が出会う20歳の時点に時が戻って本編がスタートする。
当然、このオープニングのシーンに向かって物語は進んでいくのだと、思わせる。
確かにそうなのだが…でも、違った。
予想を裏切る展開の末にむかえたハッピーエンドの、なんと清々しいことか。

主人公のフンス(ノ・サンヒョン)は同性愛者で、男と抱き合っているところを母親に見られた過去があり、その時の母親の反応から、これは隠すべきことだと認識しているのだ。
言っておくが、彼はトニー・レオンにもレスリー・チャンにも似てはいない。

自由奔放に生きている(ように見える)ヒロインのジェヒ(キム・ゴウン)は、フランス留学から帰国したのだが、留学中の4年間に一度も親がフランスを訪れなかったという、家庭に何か事情があるようだ。
彼女は『猟奇的な彼女』(’01)を連想させるような不思議ちゃんなのだが、キム・ゴウンはどことなく安藤サクラにも近い気がする。

フンスとジェヒの間には普通ではない関係が築かれ、それぞれ恋愛や学生生活・社会生活でなかなかに濃い経験をしていく。
この二人の関係が揺れ動く十数年間をドラマチックに見せていく。
個々のエピソードが極端だったりあからさまだったりするのが、韓国映画らしくて面白い。
波乱に満ちたその十数年で、互いに尊重し理解し合う関係が醸成されていくのだが、その二人の関係を理解する人たちとも出会えたのだと思うと、まったくもって羨ましい。

フンスの母親(チャン・へジン)が彼の性指向を〝病気〟だという場面がある。
その後、フンスから自分はゲイだと告げられた母親がショック状態で観に行った映画は『君の名前で僕を呼んで』だった。
こういう小技がいくつか散りばめられているのも憎いところだ。

この映画では同性愛者への偏見が描かれているが、テーマは同性愛に限っていない。
何かしら人との違いに悩みや不安を持っている若者が、このファンタジーに自分を投影してほんの少しでも気楽になれれば、価値は高いと思う。

kazz
トミーさんのコメント
2025年8月14日

共感ありがとうございます。
はぐれ者の二人が、最も俗世間的な披露宴で弾けるのが痛快でした。ゲイで無くても日本でも誰かやらんですかね。

トミー