「「変わり者」の嗅覚」ラブ・イン・ザ・ビッグシティ かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
「変わり者」の嗅覚
「変わり者」と言われ続け自分でも自覚があると、自分と似たような「変わり者」を嗅ぎ分ける嗅覚が発達します。自分がそう。
年を取って世間が広くなり、変わり者なりに自分に合った友達はできるものだと分かったが、私の場合は、若い頃は「変わり者」なことにとても引け目があり人の輪に入るのに遠慮があって、「まっとうな人たち」との距離感がわからず、ボッチになることも多かった。
分かり合える友達が欲しいと常々思っていたので、そういう能力が発達したんだと思う。
ジェヒがフンスを見つけたのも、多分変わり者特有の嗅覚のおかげ。
フンスには、生き方のスタイルがあって、葛藤の末に会得した処世術であることがにじみ出ており、そこがジェヒのお眼鏡にかなったんだと思う。
フンスの「変わり者のひけめ」はゲイであること。ジェヒはそれで、ほっとしたかも。
他害があるわけでなく、人間性が異常なわけでもない。秘密を抱えているせいで過敏に反応するところがあり、人付き合いは避けているが人を傷つけないように気を配っている。だが他人が自分に対して理不尽にふるまうのは許さない。理路整然と筋が通った考え方をするが冷たくはない。人の心の機微が分かる、実は「いいやつ」だし。
フンスの言動から、長い時間をかけ、葛藤を重ね、試行錯誤してそこに至ったのが透けて見える。
電話したのになんで来てくれなかった、とフンスに怒りをぶつけるジェヒに、フンスは「俺はお前に言われたらすぐ駆けつけないといけないのか」というのはものすごくまっとうなことで、それで大喧嘩になって一旦その場を去っても、両方とも瞬時に戻ってきて「昨日何があった?」「その傷はどうしたの」と同時に相手を思いやる。このふたりの人間性がとても好きだし、うらやましい。
「ありのままの君で良い」というのは、誰にでも適用するものではない。
ありのままじゃ良くないと思われる人ほど、自分はそのままで良いと思っていたりする。
でも、ジェヒやフンスのような、人間性に富み、人としてまっすぐな変わり者には言うべき言葉だろう。
ジェヒは、周囲に合わせて無理に自分を変えなかったからこそ、生涯の親友と夫ミンジュンに出会えた。そしてわが身を顧みずモラハラDV婚約者ジソクの本性を暴いてジェヒに目を覚まさせたのはフンス。警察署の場面では笑ってしまった。
フンスの場合は、世間一般の理解と風当りを考えたら、一部にのみありのままを見せるにとどまるが、それでも、秘密をさらけ出しても心地よい人間関係があるのは、ないのと大違いだろう。特に、お母さんに受け入れてもらえたのは大きいと思う。スホを逃したのは残念だけど、いつか良い人が見つかると思う。(しかし、スホって勇気あるな。)
フンスが勇気を奮って世間一般にカミングアウトするようなストーリーじゃなくて良かった。それをしたら映画が陳腐なものになったと思う。
この二人は最高のバディ、形は違うが、同じ木になっている実みたい。
「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」のふたりと同じ属性。
巡り合ったら、それだけで丸儲けだと思う。心が満ち足りて、豊かな人生になりますね。
共感ありがとうございます。
自己分析に基づいた整然としたレビューで素晴らしいです。
二人を繋いでいたとしか思えないもう一つの要素が酒。アル中寸前だとも思いますが醜態を晒し合い世話をする、もう酒止める〜の翌朝冷蔵庫から・・大笑いでした。