劇場公開日 2025年8月29日

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「優しさで織りなす自己発見の旅路」不思議の国でアリスと Dive in Wonderland おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 優しさで織りなす自己発見の旅路

2025年8月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

幸せ

癒される

■ 作品情報
監督 篠原俊哉、脚本 柿原優子、主演 原菜乃華、マイカ・ピュ、アニメーション制作 P.A.WORKS

■ ストーリー
就職活動に苦戦し、周囲の空気を読んでばかりいた大学生の安曇野りせ。ある日、亡き祖母が遺した招待状に導かれ、“不思議の国”へと迷い込む。そこで純粋な少女アリスと出会い、共に旅をする中で、りせは白ウサギやチェシャ猫、マッドハッターといった奇妙な住人たちとの騒動を経験する。祖母との思い出も重なり、りせはこれまで装ってきた自分を顧み、自身の好きや大切なものに正直であることの尊さに気づいていく。

■ 感想
P.A.WORKSが紡ぎ出す世界は、やはり温かく、柔らかな色彩に満ちています。キャラクターデザインも親しみやすく、その世界観の雰囲気作りには一切の抜かりがありません。細部まで丁寧に描かれた背景美術は、観る者を優しく包み込むようです。

主人公りせが経験する自己探求の物語は、多くの現代人が共感するものではないでしょうか。他人の目を気にして自分を偽り、就活のマニュアルに縛られていた彼女が、不思議の国での出会いと祖母との思い出を通して、本当に大切なこと、つまり自分の「好き」や「思い」に正直であることの重要性に気づく過程は、胸に響きます。

終盤、空虚だったりせの姿が透明なシルエットで描かれ、飾らない素直な自分を取り戻す変容が視覚的にも表現されます。この演出がわかりやすく、彼女が本来の輝きを取り戻す姿は、心地よい感動を与えてくれます。

しかし、正直なところ、りせがメッセージに辿り着くまでの不思議の国の描写には、イマイチ没入しきれない部分があります。アリスの屈託のない姿はとても魅力的なのですが、不思議の国の住人たちとのショートエピソードに重層的な繋がりを感じにくく、もう少し驚きや深みが欲しかったと感じます。全体としては確かによい作品なのですが、心震えるような大きな感動とまではいかず、やや物足りなさを覚えてしまうのが惜しいところです。

おじゃる