「ヴェネツィアにじっとりと蠢いている「異端さ」」岸辺露伴は動かない 懺悔室 ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
ヴェネツィアにじっとりと蠢いている「異端さ」
※5/12のジャパンプレミアにて初見。
※今後数回鑑賞予定なので、完全版レビューを公開します。
取り急ぎ、初見時に強く印象に残った点について。
◯画の美しさ
オールヴェネツィアロケ、とは予告や宣伝で沢山聞いていたけれど、映画を観てその意味がちゃんとわかってなかったな…と思うくらいに凄かった。
とにかく、どのシーンを切り取っても、画の美しさが格別に違う。
言葉にうまくできない。もうそこに佇み、存在しているだけで美しい。
スクリーンを介して、暴力的なくらいにその美しさで圧倒してくるし、無言のうちに雄弁に都市って語るのだなと初めて感じた。
また、都市の風景に関わらず、特に美しいと思ったシーンは…
・懺悔室での懺悔の核心部分を聞いてしまった後の露伴
まなざしはフレームアウトし、口元のみが大映しになるショット、最早美しさ端正な顔の輪郭すら怖すぎると感じて、ゾクゾクしてしまうくらいだったなんと美しいことか…
・ラストシーン。言うこと無いですね。
一生さんも舞台挨拶でこのシーンについて言及していたくらいには、貴重な一瞬の空の移ろい、海の輝きを閉じ込めたようだった。
個人的には、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の時の、パリパートのラスト(ルーヴル前で露伴と泉の会話、曇り空が映るシーン)をヴェネツィア版にするとこうなります!という感じかなと思ったり。
パリとヴェネツィアの都市性の違い、みたいなことも感じたので、今後掘り下げていきたいかも。
◯脚本、原作からの追加パート
原作パートを本当に前半1時間でテンポよく描ききり、後半1時間をオリジナルで更に展開した点について、
原作がドラマサイズくらいなので、どんな感じになるのかなと思っていたところ、
原作では名前も出て来なかった娘=マリアを膨らせることで、更に「呪いの連鎖」の構図になっていて、構成の更なる深み・面白さを感じた。
さすが靖子にゃん(脚本の小林靖子先生)と思わずにはいられなかった。
◯井浦新さんが凄い
本当に凄かった。キャストの皆さんとても良かったし、ファンとしては一生さんやっぱり凄い露伴先生はこの人だけだよ…とは思っているが、今回のMVPは間違いなく井浦新さん。
とにかく、「井浦新に背負わせたい業・難役」をてんこ盛りにしていたし、
舞台挨拶からも田宮の芝居からも、井浦さんご本人が原作ファンとしての気合いで満ち満ちていて圧倒されたし、
何より、人間の持つ様々なしんどさ・どうしようもなさ・みっともなさ・残酷さ等、人間の負の部分(という表現は適切で無い気がしますが、適切な表現がわからない…)の見本市みたいなことをお一人でやられていて、芝居のパターンの幅広さに本当に感動した。
◯音楽
こちらについては2点。
・少しニッチな話ではあるが、田宮の懺悔が佳境に入った時、テレビシリーズの『六壁坂』でやはり佳境のシーンで使われていた『愛のテーマ』という楽曲が使われている。
私が本シリーズのサウンドトラックで最も好きな楽曲なので、映画館で本当に驚いたし、菊地成孔さん!新音楽制作工房さん!ありがとう!!!という気持ちでいっぱいである。
それでは、何故この曲が再度"引用"されたのかと考えると、単純な考えではあるがやはり両エピソードとも親から子への呪いの連鎖の物語であり、「血脈」の濃さ・怖さ・断ち切れなさを描く象徴的なエピソードという相似が見られるからではないだろうか。
・お馴染み『大空位時代』は、テレビシリーズから『ルーヴル』でスケールアップしていたので、今回は更に変化があるのか?どうなるのか?と気になっていたら、きちんとヴェネツィアバージョンになっていた。街全体に響き渡る印象的な鐘、そして呪いの瞬間に打ち鳴らされる鐘が加わっていた。
この鐘の音色は幸福がもたらす祝福なのか、絶望へのカウントダウンなのか、どちらにも捉えられるようで印象的だった。
◯岸辺露伴は「血脈」の物語なのか?
これに関しては、ジョジョファンの方はきっとお詳しいと思う(私は露伴シリーズのみ原作を読んでいて、ジョジョ全体は読んでいないため)ので、私が言及しきれないところも感じてはいるが…
少なくとも岸辺露伴シリーズ全体を貫く軸なんだろうなということを、改めて強く感じた。
『ルーヴル』のレビュー(プロフィールよりブログにて完全版アリ)でも言及したが、『ルーヴル』は黒い絵を巡る血脈の呪いの物語で、それが最後に映画オリジナルパートである岸辺家(露伴と奈々瀬)の血脈の物語に帰結する。
また、先ほど音楽で触れた『六壁坂』も奇妙な「子孫だけを残す妖怪」のエピソードである。血脈の象徴である子孫を(しかも本人は不在であるというのに)残すことで、相手にいつまでも「忘れさせない」という永遠の束縛を果たす物語だと私は捉えている。
以上の点からもやはりこのシリーズは、血の繋がりが齎すものの光と闇について、形や場所を変えながら変奏し続け考え続けさせるような作品のように思えてならない。
※いろいろ書きましたが、当方高橋一生さんのファンです。今回も抜群にビジュアル良し、芝居良しなので、とにかくスクリーンで!ご覧ください!!!