「重い設定でありながら癒しの作品」父と僕の終わらない歌 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
重い設定でありながら癒しの作品
“ちはやふる”を含め 小泉徳宏作品は監督としてのセンスを感じられ、俺的に非常に注目している監督。作品数は多くないため本作も公開を楽しみにしていた。
【物語】
いくつになっても陽気で音楽好きの間宮哲太(寺尾聰)は町の人気者。横須賀で長い間楽器店を営んで来た。東京でイラストレーターとして働く息子の雄太(松坂桃李)が幼馴染みの結婚式のために久しぶりに実家に帰って来る。哲太、雄太、母親律子(松坂慶子)揃って出席した結婚式は家族にとっても楽しいものとなったが、帰り道で雄太は哲太の異変に気付く。
哲太はアルツハイマー型認知症の初期と診断される。 徐々に症状が進行する哲太を観て、雄太は父親のためにできることを考える。若い時プロのミュージシャンになることを夢見ていた哲太には歌が生きる支えになると考えた雄太は、昔から哲太を知る町の仲間たちにも協力を求めて動きだす。
【感想】
これまで観て来た小泉作品は若者を主人公とした青春もの的作品だったが、今作はアルツハイマーに襲われた老人を中心にした物語であるので、だいぶ趣が違う。それでも、期待を裏切らない心揺さぶられる作品だった。
医学が進歩して平均寿命大幅に延びたがために、認知症を患う確率が今は昔より格段に上がっているのではなかろうか。自分も老人の域に片足、いや両足?を突っ込んでおり、めっきり記憶力が衰えていることを実感している昨今なので、他人ごととは思えない。 いつか自分も家族に迷惑をかけるかも知れないと考えると怖い。 そうなったとき、哲太のように周囲の人に支えられたら幸せだろうなと思った。 アルツハイマーという大変な境遇に陥った老人の話でありながら、そんな安らぎを感じられる作品。
ただ、哲太のように支えてもらえるためには、きっとそれ以前に哲太が周囲の人に多くの幸せを与えて来た結果だろうと考えると、自分は無理だな(笑)
哲太を演じる寺尾聡。俺の世代では、寺尾聡の歌と言えば“ルビーの指輪”だ。当時から、彼の歌を上手いと思ったことはないが、雰囲気はあると思う。そこが役者の凄いところかも知れない。本作でも、自称“横須賀のスター”が、楽しそうに、嬉しそうに、口ずさむ歌は作品にとても良くマッチしていて良かった。 演技ももちろんベテランの味。
松坂桃李も最近ではすっかり演技派。本作でも父親への失意、反目を乗り越え、父親の幸せを願う息子の心情を自然に演じ、クライマックスでは胸打たれた。
その他の役者でも、松坂慶子、佐藤栞里の優しい空気が心地よかった。
現実にはこう上手くはいかないのだと思うけれど、今後益々進行する高齢化社会で「こう生きられたらいいな」という希望を抱かせてくれる作品でした。
実は小泉徳宏監督は初見だったのですが、センスがあって腕のいい監督だなあと感心することしきりでした。認知症という重いテーマを含んでるのにさらりと90分ほどのエンタメ作品に仕上げてしまうというのはなかなかの才能だと思いました