「クソ映画好きならオススメ」果てしなきスカーレット y0u_さんの映画レビュー(感想・評価)
クソ映画好きならオススメ
SNSでクソ映画だのスカスカーレッドだのと言われまくっていたので、自分の目で真実を確かめるために鑑賞。
結論としては、まあ酷いもんでした。
ハムレットを知っているような知識人でないと楽しめない的な評価が散見されますが、ハムレット知っていても粗が目立ちすぎてそれ以前の話で楽しめない(クソ映画好きなら終始それはねーだろとツッコミ入れられるので楽しいけど)。
一応、ハムレットとの対比を意識してんのかなーと気付いてニヤリと出来る部分はあったものの、それはあくまで枝葉。根っこというか幹がダメなので作品評価には影響しないと思う。
正直映像作品として支離が滅裂というか、開始数分から「それはねーだろ」「そうはならんだろ」ってツッコミながら観てた。(普通に声に出てたけど劇場内に自分以外誰もいなかったから許してほしい)
細かい部分にツッコミ入れるとキリがないので個人的に重要だと思った部分だけ記載。
・物語の起こりは非常に良い。
父を殺された復讐という導入はシンプルでわかりやすい。死者の国を旅する中で父の遺した言葉を解釈し、最終的に復讐と許しどちらを選択するのか?という重厚なテーマは個人的に好き。
・世界観と設定は良いが、それを完全に持て余している。
全ての死した者が訪れるという死者の国の設定も良い。過去、現在、未来あらゆる時間軸が交わり同時に存在するというのも面白い。
……が、残念なことにこの設定を完全に持て余している。
書きようによってはアクション面、物語面両方で面白くなる設定なのに全く活かせていない。
死者の国のビジュアルは荒野と砂漠、朽ちた遺跡で構成されており、古代~近代、未来っぽい風景は全く登場しない。せっかく時間軸が混じり合う設定を用意したのなら、様々な時代旅するように作ったほうが絶対面白いだろうに。
また、登場人物はほとんど父の仇であるクローディアスの配下。つまりほぼ同一の時代から訪れた人物ばかりで、さらに身内ばかりなので広がりがまったくない。
この「時間軸が混じり合う」というのはおそらく監督が聖という現代人一人を参戦させたいがために敷いた設定なのだろう。実際、完全に異なる時代からの登場人物は聖以外に存在しない。(ちょっと離れた時代、国の人間っぽいのはちらほら居るがパッと見でわからない)
「スカーレットが死亡した後、クローディアスは未来でクーデターを起こされて暗殺された。そして死者の国でクローディアスとスカーレットが再び相対する」みたいな話にすればまだ良かったのに、クローディアスはあろうことかスカーレットが死亡した直後、毒を誤飲して死亡していましたというなんともアホらしい理由で死んでいる。
じゃあもうこの設定要らんでしょ。
・あまりにも意味不明な謎ドラゴン
死者の国には地表に雷を落とす巨大な龍が空を飛んでいる。以上。
…本当にこんな感じ。映画を最後まで観ても、定期的に現れてはスカーレットと敵対する相手に雷を落としてスカーレットを助けるドラゴン以上の描写がない。一切説明されないため、本当に何だコイツとしか思えない。
最終的には仇であるクローディアスもこのサンダードラゴンが始末するため、最後まで「主人公の勝利」というカタルシスが得られない。
描写から読み解くに、この龍は死者の国を回遊する上位者的存在で、死者の国において一定のルール(のようなもの。カルマとかそんな感じ?)を破ったものに対し制裁を加える的な役割があるのだろう。多分。
とはいえ、説明どころか登場人物の誰一人彼の龍に対して言及しないので自然災害以上の役割がなく、にも関わらずスカーレットがピンチのときにだけ現れるためご都合主義感が凄い。
・クローディアス及びその一味の存在が意味不明。
主人公スカーレットの宿敵であり、父王アムレットの弟。
物語冒頭でアムレットを謀殺し、王座を乗っ取る。
復讐に燃えるスカーレットを返り討ちにした直後、他者に盛るための毒を誤飲して死亡。
スカーレットとほぼ同時に死者の国に訪れたにも関わらず、死者の国で巨大な城や壁を築き、自身のように「見果てぬ場所」を目指す人々を妨害していた。
まあ死者の国は時間軸の概念が無いらしいのでいつの間にそんなもん用意したんだとか言うのは野暮かもしれない。(時間の概念が無いのに昼夜はあるのかよと突っ込みたくなるが)
クローディアスは死者の国で最も高い山の頂きにあるという「見果てぬ場所」に辿り着くことを目指している。しかし、見果てぬ場所には王妃ガートルードと共に向かいたいと考えており、いまだ死者の国に留まっている。
…それはわかるのだが、そもそもなんでクローディアスは人々が「見果てぬ場所」に辿り着くのを妨害していたのだろう。
物語中には「見果てぬ場所」に人数制限があるような描写は無く、わざわざ軍を興し、壁を築き、人々のヘイトを集めてまで進路を塞ぐ必要性は皆無だ。一体何がしたいのだろう?嫌がらせか?
また、死者の国には現世におけるクローディアスの部下が全員集合しているが、そもそも彼らは何故死んだのだろう。
前述した通り、クローディアスの死因は毒の誤飲であり、ラストの描写的に死亡してからおそらく数時間~数日といったところだろう。
にも関わらず死者の国には部下が全員集合している。コイツらは全員揃って毒を誤飲したのだろうか?
クーデターを起こされてまとめて暗殺あるいは処刑されたというならわかるが、あまりにも意味がわからずクローディアスの死因が判明した直後「はぁ?」と声が出てしまった。
・聖の行動に一貫性がなさすぎる。
死者の国に訪れたスカーレットが出会う「現代日本人」の青年。
看護師(描写としては救急救命士っぽいけど)のため、他者を害することに忌避感を持っている。
現実が見えておらず敵の前に丸腰で飛び出して争いを止めようとする。
無論スカーレットとは相容れず、事ある毎に衝突することになる。
…のだが、キャラの掘り下げが全く無いため終始「なんだコイツ?」感しかない。
死が当たり前の世界で死を忌避するような理想を追い求める甘ちゃんキャラかと思ったが、にしては主張が弱すぎる。
唯一の掘り下げは、彼が看護師になろうと思ったきっかけを語るシーンくらいだろうか。
「ボロ雑巾のようになって働く看護師を見て、自分もなろうと思った」とのこと。
なんだそりゃ。
また、個人的に全く理解が出来なかったのが終盤、クローディアスの築いた壁を民衆?が打ち壊してクローディアスの軍隊とぶつかるシーン。
クローディアス配下の兵士に襲われた聖が、自身が現世で通り魔に刺されて死んだという事を自覚する。
…そして、その直後あっさりと人を殺す。襲ってきた兵士達を矢で以て殺害するのだ。
確かに武器を持つ兵士に襲われたのだから当たり前のことだろう。別に殺した事そのものを責めるつもりはない。
しかし、それを行ったのが今まで散々生命の大切さを説き、人を殺すなと主張していた聖である。
こういう甘ちゃんキャラは自身の主張を最後まで貫いてこそ初めて成立するのだ。
死が当たり前の世界でそれでも尚自身の良心に従い死を忌避し、それを貫くからこそ他者との対比となりキャラに深みが出る。自身の身に危険が迫ったからと人を殺すならもうそのへんのモブキャラと変わらないだろう。
ちなみに、聖がこの殺人に対して葛藤する様子は皆無であり、この後一切思い返すことはない。
この時点でこの物語に聖が登場した意味はゼロになったと思う。聖が今後何を言おうとその台詞はひたすら空虚だ。
仮にスカーレットの生き方である復讐が云々とか殺しが云々とか講釈垂れようと、「でもお前普通に人殺したじゃん」で終わってしまう。
思わず「マジで薄っぺらいなコイツ」と呟いてしまうくらいには好感度がゼロになった。
せめて剣を構えた兵士の腕を射抜いて止めた後で兵士を治療するといった描写であれば一本筋通ってるなと思えるのに何なんだこれ。
・そもそも聖要らない説
そもそもの話、主人公であるスカーレットがこの後見せる葛藤、もっと言えばクローディアスに対して許しを与えるという展開についても、きっかけとなったのは父王であるアムレットが今際に残した「許せ」という言葉である。
つまり、極端に言えば聖がスカーレットに対して与えた影響は物語に何ら影響を与えないのだ。
もっと言えば、聖がいなくともこの「果てしなきスカーレット」という物語は成立してしまう。
取って付けたような恋愛描写のために存在するようなキャラで、スカーレットの根幹にある再起と許し、争いのない世界を作りたいという目的は全て最初から父王アムレットに与えられていたと思う。
聖が事ある毎に主張し、自身の手で無に帰した「生命を大切に」というメッセージすら元々アムレット王が主張していた事の焼き直しである。(そもそもこの世界に訪れた時点で全員死んでいるため、他人からすればひたすら何言ってんだコイツとしか思われない)
おそらく、聖の出番をそのまま削り取ってもスカーレットの辿る道程や結末は何一つ変わらない。
いまだかつて存在そのものが不要なメインキャラクターなどいただろうか?
正直ビックリだ。
・後半の盛り上がりがない。
後半、スカーレットはクローディアスを追って見果てぬ場所に繋がる門の前に辿り着く。
そこまでに唐突に山が噴火して民衆が溶岩に飲み込まれたり、山の頂に辿り着いたスカーレットたちを(なぜか)待ち構えていたクローディアス側近との最終決戦があったり、(どうやってか知らないが)追いかけてきた元クローディアスの側近二人がピンチに陥ったスカーレットを助けたり、聖が兵士二人を殺した際に傷を負っていたりとなんか色々ある。
…のだが、全く盛り上がらないのでもはやどうでもいいまである。
盛り上がるような描写もBGMもなく、聖とスカーレットの実質最終決戦は元クローディアスの部下(裏切り者)の参戦で終わる。
最終的に何故かスカーレット一人で見果てぬ場所へ繋がる門の前に辿り着く。なんで聖は付いてこないのか。マジで何なんコイツとしか思わなかった。
・最終決戦がクソ
仇(ラスボス)であるクローディアスとの直接対決という燃えるシーンのはずなのに終始グダグダで全く華がない。
ハムレットを意識しているのであろうクローディアスの懺悔やハムレットとの対比を意識しているのであろう父の亡霊との再会等盛り上がれそうなシーンはある。…のだが、いちいちテンポが悪くてノリきれなかった。
いや、それは正直どうでもいい。問題なのは決着である。
最後まで自身を曲げないクローディアス。スカーレットは果たしてどのような決断を下すのか?という最高に盛り上がるであろうシーンで再び現れたサンダードラゴン。
剣を掲げたクローディアスに雷を落とし、クローディアスは死にたくないとスカーレットに縋り付きながら消えていった。
…なんだそれ。
スカーレットが許したにも関わらず、クローディアスがそれを受け入れず最終的に死亡という展開にするならトドメは聖が刺すべきだろう。
最終的に蚊帳の外なら聖の存在はいよいよなんなんだ?
というか最終決戦の場に存在すらしないなら最初から登場する意味が無い。
ちなみに、最終的にスカーレットは毒を飲んだ後仮死状態で生きているとのことで見果てぬ場所へ辿り着く事無く現世へ帰還する。
門の先には何があるのか?見果てぬ場所はどんなものなのか?の描写は一切無い。
せめてクローディアス達が何を求めて戦っていたのかくらいは知りたかった。
・総括
この映画は最初から最後まで意味不明。
CGは綺麗だし戦闘描写も悪くない。世界観も良かったし面白くなる要素はいくらでもあるのにそれら全てを途中でゴミ箱に放り込んだみたいな感じ。
展開が破綻してるとかそういうレベルじゃなくて物語として成立していない。
単純に物語作品として面白くない。
……とまあ、映画好きには全くおすすめできない作品。
だけどクソ映画好きには是非とも観てほしい。
笑えるレベルで「それはねーだろ」が散りばめられてて最後まで退屈はしないと思う。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
