「細田監督の良いところと悪いところ全部のせ」果てしなきスカーレット てんぞーさんの映画レビュー(感想・評価)
細田監督の良いところと悪いところ全部のせ
映像美と演出力は細田監督の真骨頂でたいへん見事。雲間から現れるドラゴンや大軍の激突は迫力が凄い。死者の国を舞台にした死後の復讐譚というのも珍しくて面白い。生前世界を手書き風、死後世界を3D作画風で描き分ける細かい気配りは好印象。
スカーレット姫はシリアスな顔をしてるわりに迂闊な所が可愛い。
生前も死後も騙されっぱなしで、いよいよ復讐を遂げるか否かという時にまで相手の嘘にコロっと騙される。
結局、スカーレットは根っからのお姫様で、人の善性を否定できないのだ。そんなお姫様が、しかしその性根を曲げないまま強く逞しく成長いく様は見ていて応援したくなるし、いつまでも迂闊なままいてほしいと思う。吹替の芦田愛菜の悔しがり演技も本当に悔しそうで最高。スカーレット好きだ。
この作品は輝くところも落ち込む所もどちらも明確。
作品全体に影を差しているのは、細田監督が手癖で絡めてくる現代要素。
聖という現代人キャラは象徴的ではあるが、物語的な存在感は薄いので実はそこまで気にならない。
一番根が深いのは、スカーレットが現実の16世紀人である設定。
スカーレットが渋谷にトリップしてダンスパレードするシーンはあまりに急だし過去×未来のクロスがうまく機能しないのでひたすら面食らう。
聖から受け継いだ「優しさ」を信念にしてスカーレットが「優しい王女として国を治める」という着地を迎えるのは、キャラクターの成長譚としては美しいし説得力があるが、16世紀の世界史をその思想で戦っていけるか?という不安が残る。
スカーレットというキャラクター、端々の演出、作画のクオリティ、画面の力強さ。
光り輝くもの多数あったのに、それらが一つの作品として機能する事は無かった。
毎度の事だが、あともう少しで名作に手が届くのに、細田監督は自身の手癖の悪さでいつもそれを不意にする。
「どうしても復讐を諦められない」と吐露するスカーレットの姿には、細田監督自身の苦悩が重なるように感じられた。どうしても現代要素を入れるのをやめられない。ストーリーを変な方向へ跳ねさせる衝動を抑えられない。
細田監督に必要なのはもっとシンプルで、力強くて、余計なメッセージ性など無い王道のファンタジーなのだ。細田監督はいつ見果てぬ場所にたどり着くのだろうか。次があるなら、その時こそ完全なファンタジーに徹してほしいと思う。
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