「細田守版『君たちはどう生きるか』?(核心には触れないほんのりネタバレあり)」果てしなきスカーレット なさんの映画レビュー(感想・評価)
細田守版『君たちはどう生きるか』?(核心には触れないほんのりネタバレあり)
開始早々、後悔した。ケチらずに IMAX で観れば良かったと。
大スクリーン、高画質、大音響で観るべき圧倒的な映像美。
酷評の嵐の中にある作品であることを理由に IMAX で観ることを躊躇してしまった。
人によって好き嫌いが分かれる作品であることは頷ける内容であった。特に、理想論に対して、綺麗事や偽善と感じて嫌悪感を抱く方からは受け入れられない作品と感じた。
酷評をしようと思ったら、至る所にその材料が散りばめられているようにも思えた。
やりたいことを詰め込みすぎてとっ散らかってる感は否めないし、小説なら章単位で話が飛んでるように感じるほど展開が早い。都合良く現れ正体が明かされないままの龍(東洋人には理解しがたい存在...?)の存在。わかりやすく盛り上がる場面はないし、皆が目指す「見果てぬ場所」がどんな楽園かは結局わからない。登場人物の心情がわからず行動に???と思うことや設定が不明瞭な点も多々あった。
『サマーウォーズ』や『時をかける少女』と比べると、抽象度の高い内容でありテイストも全く異なる。あの頃の作品が好きだった、あの頃の監督はもういない、と言われるとおっしゃる通りです、と言う他ない。
鑑賞後に、よくわからないシーンがありモヤモヤが残る方にも受け入れられなさそうである。
それでも監督のメッセージは明白だったように思う。
「生きる」とはどういうことか。
復讐心に駆られて大切な心を放棄するのか。赦すことで別の道を切り拓くのか。
命を何よりも尊重するのか。そんな信念を捨てることも厭わないのか。
欲に溺れてあらゆるモノを裏切るのか。良心など持たず権力に従順でいるのか。
眼前で大切な人を失って哀しむ人になど目もくれず、実態のわからない天国と思われる場所を利己的に目指すのか。
絶望に満ちた世界でも人と手を取り合うことで小さな幸せを噛み締めて生きるのか。
などなど。
スカーレットや聖、クローディアスなど主要な人物だけでなく、混沌とした世界に出てくるあらゆる人々の行動から、生きることの意味を観客に問いかけているように感じる。
監督自らの答えも披露してくれているが、それが絶対的な正解でなく、一人一人が自分自身の答えを見つけられれば良いのだと思う。例えそれが、クローディアスのような生き方だったとしても。
行間どころか章間を読む必要があるほどの余白の多さは、もしかしたらこのためなのかもしれない。
映画全体を通して、スカーレットの心情はとても丁寧に描かれていたと感じる。
信頼と愛を信条とする父の教えを請けて優しく育った少女が、人を憎しみ、疑い、簡単に殺めるようになる。内面の変化は、美しい容姿から変わり果ててしまった姿にも表れる。聖との旅の中でそんな心も徐々に変わっていく。
スカーレットの細かな心理描写と、彼女を復讐に駆り立てた思いの正体。これらも作品の見どころの一つである。
酷評されている原因の1つとなっている唐突に始まるダンスシーンは、復讐に取り憑かれていたスカーレットの心の変化が現れ始める重要なポイントであると同時に、スカーレットが「果てしなき旅」を始めるモチベーションにもなる、物語の中でもすごく意味のあるシーンであったと思う。
スカーレットの復讐の旅の果てにある「果てしなき旅」の始まり。
過去と未来、生と死が入り混じる世界を旅したからこそ見つけたスカーレットの生きがい。
ただし、スカーレットだけでは到底成せない、本当に本当に果てしなき旅。ヒトが皆、同じ旅路を歩むことができたらどれほど素晴らしい世界が待っているだろうか。
キービジュアルが醸し出すドロドロとした世界観とは裏腹に、希望に満ち溢れた作品であったように感じる。
エンドロールで流れる主題歌を聞いた時は鳥肌が立った。
作品の中で印象に残ったシーンを最後に紹介して終わりにする。
ある敵と遭遇したとき、聖が、交戦を避けるために勇敢にも丸腰のまま話し合いを申し出る。しかし、受け入れられず戦闘が始まり、スカーレットが敵を倒していく。
ここで、敵は聖の行動を「油断をさせた上で奇襲をしかける狡猾な罠」と解釈した。
自分の命を顧みないほど勇敢な行動が、相手には180度変わって伝わる。
人がお互いを理解し合って、手を取り合うことがいかに難しいかを象徴するシーンに思えた。
人は自分が見たい世界で生きていて、ある人の真実が自分にとっての真実であるとは限らない。
時間とお金が許すなら、ネットの情報に踊らされず、『果てしなきスカーレット』を自分自身で観て何かを感じていただきたい。(その時にはシェイクスピアの「ハムレット」を予習して行くことを強くおすすめする。ダンテの「神曲」はどちらでも良いのでは・・と個人的には思う。)
私は、もう一度、今度は IMAX で観たいと思う。
(追伸)0.5 減点した理由。
・スポンサー様への配慮だったのか 2 時間枠におさめてしまわずに、3 時間映画として制作されていたら、もっとディテールにこだわった良作になったのでは、、、と感じた
・脳みそがとてつもなく疲れた。行間や心情を考えるのに頭を使うのと同時に、映像のクオリティが高すぎるがあまり情報量が多くて、脳の処理スペックを超えてオーバーヒートした感がある。個人的には、バケモノの子くらいのクオリティがちょうど良いです。(冒頭の話と矛盾するが...
・登場人物と背景のどちらもハイクオリティであったものの、両者が調和してる感じがせず、どことなく違和感を覚えたままの鑑賞だった。これも脳が疲れた要因かもしれない。
あの違和感はなんだったのだろうか...?
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