「細田守の新たな到達点:時空を超えたラブストーリーと死後世界の奔放な創造、そして新たな統治思想の融合」果てしなきスカーレット Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
細田守の新たな到達点:時空を超えたラブストーリーと死後世界の奔放な創造、そして新たな統治思想の融合
細田守原作・脚本・監督による2025年製作(111分/G)の日本映画。配給:東宝、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。劇場公開日:2025年11月21日。
めちゃくちゃ面白かった。特に、主人公スカーレットがたどり着いた「死者の国」の斬新さと美しさに驚かされ、そして感動させられた。
死後の世界でありながら、独裁者や大衆、天国を求める人々、強盗を襲う強盗、雷を落とす巨大なドラゴンまで存在し、死んでいるのに、なおもう一段深い死があるという世界が描かれる。その虚無を恐ろしがる人間たちの姿も含め、とてもユニークで人間の業の深さを見せつけられるようで意味深だった。巨大なドラゴンは突然現れて悪を滅ぼす。一神教の恐ろしい神のイメージを体現した存在なのか。この世界で再度死ぬと、枯葉のように変化し、虚無となって消えてしまうという映像表現が実にあざやかで、本当に消失してしまう悲しみを見事に描いていた。
そして険しい山の頂上には、普通には見えない天国「見果てぬ場所」への階段がある。その透明で美しい階段を登るスカーレット。こんな素敵な映像は初めて見た気がした。そして、登りきったところは大海の底で、そこを潜り抜けると南海風の楽園が広がる。今までの細田守の殻を突き破ったような、とても豊かで奔放なイメージであった。
スカーレットの敵を倒すアクション・シーンも、看護師の聖との出会い時の複数の戦い、聖を救う騎馬戦シーン、群衆の中での闘いなど、いくつか周到に用意されていて、彼女の俊敏さと強さ、剣を使った闘いのスピード感と迫力に大感激であった。
ヒロインの愛する相手が看護師という設定もユニークで、とても良いアイデアに思えた。医師ではなく男性看護師がヒロインの恋する相手という映画は、初めて見た気がした。理想主義者で、スカーレットに「いいこちゃん」呼ばわりされるところも、観客の気持ちに寄り添っていて良かった。そんな彼が、薬やマッサージで痛みを和らげてあげるといった看護技能を用いて、警戒心の強い旅団の人たちの心をたちまちつかむ展開が楽しい。下手くそながら一緒に踊る姿が魅力的で、声優としての岡田将生の優秀さも感じられた。
そしてスカーレットが、かがり火の燃える夜、2034年の渋谷に行くシーン。タイムトラベル表現は月並みとは思ったが、歌と踊りの映像に十分なトリップ感があり、とても素晴らしかった。お見事とも感じた。ただ、宣伝に使わずに伏せておけば、より衝撃的で良かったのではとも思った。
「死者の国」での最後、虚無となってまさに消えゆこうとしている聖に口づけをするスカーレット。アニメとして究極のラブシーンに思えた。消えゆく一瞬の輝きという、なんとも日本的な儚く美しい映像美に唸らされた。
そして、復讐に突き動かされ続けたスカーレットが、その果てに辿り着いたのが「許せ」の両義性。確かに、自分も含め世界中の人々が、今こそ必要としている価値あるメッセージにも思えた。
最後、毒を飲んで死にかけていたスカーレットは目覚め、デンマークの新しい王となって民衆に平和主義的理想を語り、熱狂的な支持を受ける。さすがに、ここだけは綺麗事すぎて少し見ている時は白けた。
しかし、中世デンマークには、映画の提示年代とはずれるが、王女マルグレーテ1世(1353〜1412年)が実在したことを知る。
彼女は1375年に5歳の息子国王の摂政としてデンマークを事実上統治し、さらにノルウェー・スウェーデンと連合したカルマル同盟(1397〜1523年)を成立させ、複数国を一体化させることで北欧全域を安定化させた。同盟は武力によるものではなく、三国の貴族・王族・有力者間の利害調整と協約によるものだった。王権を暴力や恐怖ではなく、交渉・合意・妥協・制度構築によって維持した稀有な統治者だったらしい。結果的にデンマークは、1534年にドイツ・ハンザ同盟の軍事侵攻を受けるまで、他国の侵略を受けなかったという。
戦争だらけの中世欧州でこのような歴史的事実があったとすれば、スカーレットの方針も絵空事ではなく、とても有効な戦略ということかもしれない。細田守の頭の中には、彼女の成功がスカーレットの一つのモデルとして、多分あったのだろう。
監督細田守、原作細田守、脚本細田守、製作指揮、澤桂一、製作桑原勇蔵 門屋大輔 菊池剛 市川南 齋藤優一郎、製作統括江成真二 工藤大丈 上田太地 小池由紀子、製作総指揮飯沼伸之、プロデューサー齋藤優一郎 谷生俊美 高橋望Co-プロデューサー櫛山慶 佐原沙知 荻原知子、作画監督山下高明、キャラクターデザインジン・キム 上杉忠弘、CGディレクター堀部亮 下澤洋平 川村泰、美術監督池信孝 大久保錦一 瀧野薫色彩設計、三笠修、撮影監督斉藤亜規子、プロダクションデザイン上條安里、衣装伊賀大介、編集西山茂、音楽岩崎太整、エンディングテーマ芦田愛菜、リレコーディングミキサー佐藤宏明、音響効果小林孝輔、ミュージックスーパーバイザー千陽崇之、キャスティングディレクター増田悟司 今西栄介、CGプロデューサー豊嶋勇作、CG制作デジタル・フロンティア、スタントコーディネーター園村健介、スタントアクター伊澤彩織、企画スタジオ地図、制作スタジオ地図。
声
スカーレット芦田愛菜、聖岡田将生、ポローニアス山路和弘、レアティーズ柄本時生、ローゼンクランツ青木崇高、ギルデンスターン染谷将太、少女白山乃愛、老婆白石加代子、ヴォルティマンド吉田鋼太郎、ガートルード斉藤由貴、コーネリウス松重豊、アムレット市村正親、クローディアス役所広司、墓掘り人宮野真守、墓掘り人津田健次郎、年寄りの長羽佐間道夫、宿の主人古川登志夫、波岡一喜、内山昂輝、斎藤志郎、上田麗奈、種﨑敦美。
共感ありがとうございます!
前作の「竜とそばかすの姫」から少々重いテーマになったので、評論家の人までもアンチコメントを書くようになっていたので、Kazu Annさん みたいにちゃんと評価してくれる細田守教の信者(自分も)がいることで、教祖もたぶん喜んでいると思います。
ベネチア国際映画祭で世界進出を考えているような発言があったので、この作品もワールドワイドに受け入れられる作品になって欲しいです。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。

