「世界の境目で愛菜がさけぶ」果てしなきスカーレット 酔爺さんの映画レビュー(感想・評価)
世界の境目で愛菜がさけぶ
【所感】
細川守監督の新作が酷評続出ということで、それを確認しようと思い、平日の上映で観ました。上映直前まで観客は私ひとりで、結局4名というスカスカの客入りでした。酷評の影響でしょうか。まあ、他の観客の動きに気が散ることはなかったのですが・・・。これで、興行的に大丈夫なのでしょうかと。
映画が始まり、冒頭のつかみは悪くなかったものの、10分も経たないうちに集中力が切れて、早く終わらないかなと感じてしまいました。空腹や眠気も手伝ったかもしれませんが、何より映画の設定が自分の想定と大きくずれていたせいかもしれません。
物語は、ルパン三世のマモー似の存在が支配する、あの世とこの世のボーダーラインの世界が主な舞台となっています。あの世とこの世の間の世界という設定は面白いと思いましたが、その世界の描写は岩だらけの地表や砂漠中心で、設定が映像に活かしきれていないように感じました。ボーダーラインの世界の空の表現も、どこかで観たような映像でした。
世界観の設定も無理があると思いました。昔のデンマークのお姫様と現代日本の看護師がボーダーラインの世界で出会うというのは説得力に欠けるのでは。むしろ、素直に日本の戦国時代のお姫様に変えてもよかったのではないかと思いました。でも、それではクレヨンしんちゃんの映画になりますね。
スペクタクルシーンでは、群衆シーンや巨大ドラゴンとドラゴンサンダービームの迫力はありました。ボーダーラインの世界の人間が、虚無となってあの世に逝く際の消滅シーンは、アベンジャーズでの消滅シーンの踏襲に見えました。ワームホールは唐突。
登場人物のセリフですが、なぜか、滑ることか多くて、頭に入ってきませんでした。特に、マモー似のセリフは、哲学的なことを言っていますが、滑りが顕著に見られます。途中で脈絡もなく何度か登場するダンスシーンも滑っていて、フラダンスまで出てきて、物語の展開がそこで止まってしまいました。ボーダーラインの世界に、中東の人間が多いのも疑問でした。あっ、砂漠だからか。作画は終盤で急にレベルダウンして、薄っぺらになります。予算切れだったのでしょうか。
そして、最大の問題は、芦田愛菜さん。いや、愛菜さん自身が問題なのではなく、たぶん、監督の演技プランのせいでしょうか。映画では、芦田愛菜さんが演じるスカーレットが、ひたすら泣きわめき叫ぶということになっています。愛菜さんには悪いのですが、その叫びがいろんなシーンで繰り返されるため、正直耳障りでした。極端に言えば、疲労感につながるほどでした。監督が意図的に極端な感情表現を連続させて、観客に強烈な印象を与えようとしたのか、だとしたらまったく逆効果となっています。
岡田さんは過去のテレビドラマ「トラベルナース」のイメージでキャスティングされたのかもしれませんが、岡田さんでなくても別によかったのではないかという印象。役所さんの悪役は、これも演出でしょうか、ただただ大声でどなるだけで、役所さんの演技力が作品に活かされていない感じです。他の声の出演者も無駄に豪華かなという印象でした。映画の前に、テレビで見た出演者達へのインタビューでの、出演者同士のやりとりに漂う微妙な雰囲気も、現場の混乱を映しているのかと納得しました。
総合的に見ると、監督が、何かメッセージを伝えようとしているものの、観客に伝わるかたちで整理されていないと思いました。才能ある愛菜さんや他のキャストによる声の演技も、その極端な感情表現の演出で私の思考をストップさせてしまいました。物語自体はシンプル(敵討ち・復讐劇)で、ボーダーラインの世界という設定にも面白みはありますが、昔のデンマークのお姫様と現代の日本の看護師の組み合わせの違和感、過剰な感情演出、滑るセリフ・ダンスなどによって、物語がわかりにくくなったように思います。
これまでの細田監督作品は、嫌いではなかったので残念です。
愛菜さん、ごめんなさい!最後の歌はすごくうまかったです!
国宝ならぬ酷評を確かめたい方にはおすすめします。
11/28 酔爺
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
