「疑問が拭えないまま終わってしまうのは、シナリオ作成の基本を怠っているからだと思った」果てしなきスカーレット Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
疑問が拭えないまま終わってしまうのは、シナリオ作成の基本を怠っているからだと思った
2025.11.26 イオンシネマ久御山
2025年の日本のアニメーション映画(111分、G)
父の仇を討とうとする王女を描いたファンタジー映画
監督&脚本は細田守
物語の舞台は、16世紀末のベルギー王国
心優しき王アムレット(市村正親)によって統治されていたその国は、民からの信頼も厚く、隣国と戦争をしないことで、国民の暮らしを守り続けていた
彼には、妻ガートルード(斉藤由貴)との間にスカーレット(芦田愛菜)という娘がいて、彼女は父のことを慕い、奔放なまま育っていった
だが、この安穏とした世界に嫌気を指していたガートルードは、野心家のクローディウス(役所広司)と結託し、アムレットを裏切り者として処刑してしまう
クローディウスの支配により、隣国と戦争が始まり、富は貴族だけが享受する世界へと変わっていく
民たちは現実を放棄し、言い伝えられている「見果てぬ場所」というものを渇望するようになっていた
その場所は、死者の国のはるか彼方にあるとされていて、まだ誰も辿り着いてはいなかったのである
アムレットの死後、スカーレットは父の仇を討つために努力を重ねる
そして、毒殺を目論むことになるのだが、クローディアスも同じようにスカーレットの存在が邪魔で仕方がなかった
クローディアスは晩餐会にてスカーレットに毒を盛り、それによって彼女は死者の国へと堕ちることになった
そこには訳知りの老婆(白石加代子)が彼女の行く末を見守っていたが、そんな彼女の元に別の世界の青年・聖(岡田将生)がやってきた
彼は、看護師をしていて、搬送先に向かう途中だったゆえに「自分はまだ死んでいない」と言い張る
聖は交戦的なスカーレットを嗜めるように敵味方関係なく手当を施していく
そして、キャラバンと仲良くなったり、スカーレットの刺客たちをも改心させていくのである
映画は、平和ボケした青年が戦国の世で理想論を説くという内容になっていて、その言葉を受けてスカーレットが変わっていく様子が描かれていく
そのあたりの布教活動的な側面も、いずれは変わるのだろうと思っていた
人心は環境が育てるというように、聖の大切な人が目の前で殺されれば、そのような理想論は振り翳せまい
だが、映画ではそう言ったことは起こらず、スカーレット自身が「父の遺した言葉」によって改心する様子が描かれていく
いつの間にか芽生えていた聖への想いなども取ってつけたような感じになっていて、男性遍歴皆無の若者が謎の羞恥心を発揮して、いつの間にか心を傾けていく
このあたりの流れもファンタジーで、寓話になっているのかすら何とも言えない
物語は、「見果てぬ場所」を目指す人々がいるのだが、彼らがどうしてそこまでその世界を渇望するのかはわからない
死者の国の果てにあることはわかっていて、そこに行くために現世で死んでいくというマインドも謎で、スカーレットだけは瀕死から蘇ったみたいな感じになっていた
見果てぬ場所は、言うならば死者の国からの脱出ルートのようなものになっていて、そこを経過することで、現世に何かを持ち帰ることになるのだろう
それをざっくりとした言い方をすれば、「後世のために尽くす誓い」であるとか、「普遍的な愛」と言うことになるのだが、「だから何?」みたいな感じになっているのは微妙だったように感じた
いずれにせよ、公開初週から「爆死」というワードが検索に出てくるほどの流れになっていて、平日昼間は私を含めて観客は二人しかいなかった
平日の昼に来る層が観るタイプの映画とも思えないが、それにしても大丈夫だろうかと心配になってしまう
映画に関しては、映像美は凄いけど話が酷すぎて台無しという感じで、現代パートのダンスシーン云々よりも、クローディアスを含めたあの世界の住人の価値観が意味不明のまま終わったように思う
「見果てぬ場所」を渇望する何かがあると理解はできるのだが、誰も到達していない場所をどうして聖域扱いできるのか悩むし、命の取り合いをしている世界で「死んで向かおうとする目的意識」も理解し難い
そのあたりを神話的でも良いので示していれば良かったと思うし、死ぬのではなく「臨死状態になる」という儀式などを用いることで、ある程度の世界観の説明になっていたのではないか、と感じた
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