劇場公開日 2025年11月21日

「映像が素晴らしい」果てしなきスカーレット ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 映像が素晴らしい

2025年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

 シェイクスピアの「ハムレット」をベースに敷いた物語は、復讐の虚しさというテーマを痛切に訴えており、絶えることのない憎しみの連鎖、混沌とした世界に対する一つの回答を見事に提示していると思った。
 スカーレットは劇中で何度も裏切られる。しかし、そのたびに相手を信じ、己自身を信じ続けた。それが世界の平和に繋がるというメッセージは、観ているこちら側にダイレクトに伝わってきた。極めて普遍性に満ちた作品と言えよう。

 ただ、そのメッセージは十分に伝わってくるのだが、道徳の教科書のような語り口が甘ったるく感じられてしまい、もう少し歯ごたえや深みが欲しい所である。

 例えば、スカーレットの旅のパートナーとなる看護師の青年・聖は本ドラマのキーパーソンであるが、余りにも品行方正すぎてどこか嘘っぽく感じられてしまった。良い所も悪い所もあるのが人間である。しかし、彼はその名が示す通り”聖人”そのもので、まったく人間味が感じられない。そのため、彼の優しさがスカーレットの憎しみと悲しみを癒していく…というドラマも、どこか絵空事のように思えてならなかった。

 終盤のスカーレットの葛藤に迫るモノローグも、心情の説明に堕していて白けてしまう。観客にも分かりやすく…という親切心なのかもしれないが、それなら映像表現である映画にこだわる必要はない。

 他にも幾つか首をかしげたくなる展開があった。ネタバレを避けるために詳細は伏せるが、特に終盤にかけて乱暴な作りになっていく。

 一方、映像は大変見応えがあった。旅の舞台となる”死者の世界”は、主に西欧の様々な時代や民族が混在する不思議な空間で、それを3Dならではの緻密でスケール感のある映像で再現している。
 特に、冒頭の地獄のようなダークな美術、中盤の広大な砂漠の景観、クライマックスのモブシーンには目を見張った。

 剣や格闘技を使った各所のアクションシーンも迫力が感じられて良かったと思う。

 また、死者の世界にはユニークなキャラが幾つか登場してくる。スカーレットに付きまとう占術師のような老婆は、黒澤明の「蜘蛛巣城」の物の怪老婆を連想した。旅の案内人のようでもあり、この世界を影から操る黒幕のようでもある。実に面妖で面白い。そう言えば「蜘蛛巣城」もシェイクスピアの「マクベス」が原作であった。
 空から雷を放つ巨大な竜も神秘的でスケール感があって印象に残った。その存在は神の啓示か、審判か。様々な解釈が出来よう。

 唯一、映像で残念だったのは一部の2D表現だけである。本作は現実世界=2D、死者の世界=3Dという風に差別化されているように見えたが、終盤の演説シーンで急に2Dのクオリティが落ちてしまったのが気になった。

 キャスト陣は概ね好演していると思った。
 ただ、欲を言えば、主要二人はもう少し演技に抑揚が欲しかったか。スカーレット役の芦田愛菜は芯の強さを上手く表現していたが、一方で脆さを表すような細いトーンがどこかで欲しい所である。彼女は「怪獣の子供」での演技が大変上手くて感心したものだが、今回はその時よりも年齢設定が上で複雑さと繊細さが要求される役である。そのあたりを巧みに演じきるには今一歩足りない…という印象を持った。
 ちなみに、エンディングも彼女が歌っているが、声に全く力強さが感じられず今一つだった。歌手を本業とする人に任せるべきだったように思う。

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