「教養が試される感じ」果てしなきスカーレット コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
教養が試される感じ
これを楽しめるのって、日本人には相当にハードルが高いのではないか?という疑念が最初に沸きました。
まず、シェイクスピアの『ハムレット』の履修が必須。
前作『竜とそばかすの姫』が、『美女と野獣』を下敷きにしていた以上に、直球で古典を反転させて、『ハムレット』を"本歌取り"していました。
しかも『神曲』まで混ぜ込んでいる。
「デンマークの王子ハムレットが、父王を毒殺して王位に就き母を妃とした叔父に復讐する物語」があり、そして、「死んだ王の名が『ハムレット王』で、王子が『ハムレット王子』である」ってことが基礎知識。
そして換骨奪胎して、ハムレット王子を、スカーレット王女に改変したのが本作。
(王の死に方を毒殺から、無実の罪をきせての死刑に変更しているのも大きな変更点)
2時間を使って、最終的に語られるのがその結論なの?という肩透かしにも似た、「理想」の薄さ。
そもそも、16世紀デンマーク人の常識や復讐へ至るおじの非道さへのアンサーと、21世紀日本人の緊急救命士(看護師)の倫理観が一致すること自体が受け入れにくい。
だが、そのけっこう必要な説明などすっ飛ばして、「教養として知ってますよね?」「あれの変化球だから面白いってわかりますよね?」という感じの脚本だったので、「海外の映画祭向きで、日本ではこれ受け入れられにくいのでは?」と思いました。
それから、観る側が、「怒り」について理解しているか否か。
この世界中の「ヘイト」に対する問題意識があるか否か。
そういうことが求められる気がします。
・911など、キリスト教vsイスラム教の争いと恨み、怒り
・ガザなど、ユダヤ人とアラブ人の争いと恨み、怒り
・SNSに渦巻く他責思考、外国人差別、怨嗟、復讐の繰り返し
こういった「スッキリする」という暴力的思考と、怒りや復讐心に囚われ、終わることのない恨みの連鎖を繰り返すこと……
その虚しさと恐ろしさを意識しているかどうかによって、本作の印象はまるっきり変わると思います。
「赦す事により復讐の連鎖を断ち切る」ことを、爽快感として捉えられるかどうか。
しかし今の時代、作者の意図を汲み取れるほど、今の日本って客の質はよくないですからね。
参政党やN党の暴言や、首相や閣僚の失言に拍手喝采している連中が多い状況では、理解してもらえない可能性が高そうで。
逆に「被害にあった方が我慢する」ことを強要される、って受け止めてしまって、不快にすら感じる人が多いかもしれません。
それと、2Dのところなどは、さすが4年かけただけあって神業的な作画をしているのに。
3Dも、雲や水の表現は素晴らしかったのに。
エフェクトなどにも高度な技術を使っているのに。
ごく一部の作画(というかCG)のせいで、へにょへにょなへっぽこな印象を与えてしまい、全体がダメだったように感じてしまいます。
全編が実写からの2D化や、もともと手描き無しでのCG作画であれば、通しで見ていれば慣れて問題なくなのるのだけれど、手描きと混ぜると切り替わった途端に違和感を覚えがち。
『サマーウォーズ』や『竜とそばかすの姫』は、3Dメイン作画がヴァーチャル空間という線引きがあったので、意識を切り替えやすかったのですが。
本作の場合、同じ空間の出来事となり。
モーションキャプチャーからの動きの再現が、素早い戦闘シーンではうまく生きているんですが、ゆったりとした動きでは中途半端にぬめぬめした下手なCGにしか見えず。
特に、フラダンスと現代日本のダンスシーンが痛々しい。
肩関節や股関節の動きが、「センサー付けて動きづらい人の動き」まんまの違和感。
ある意味、人間の動きそのものを「いかに強調(カリカチュア)するのか?」がアニメーションの持ち味なのに、単なるトレスをした結果、「不気味の谷現象」に近い違和感を産んだと思われます。
私らは『THE FIRST SLAM DUNK』や『シン・エヴァ』などのモーションキャプチャー活用のアニメーションの高レベル作画を見ちゃっているんで、あの「レベルが低い」と感じる部分はきつい。
というのが、興行成績的観点から考えた、本作の「難しさ」だと思います。
たまたま私は、東京国際映画祭の『ハムネット』で『ハムレット』を再度調べたり、最近のミッツ祭りの『ロイヤル・アフェア』に関連して15~18世紀デンマークの歴史を調べたために知識があり、また「支持を集めるもの全てを疑う」癖がついていて、「怒り」への疑念視点を持っていたおかげか、そこそこ楽しめたんですけどね。
作画の点は『BLUE GRANT』みたいな疾走感があれば解決できた(というか誤魔化せた)はずですが、前述のような引っ掛かりで、気持ち悪さが拭えなくなっているのがもったいなかった。
あと、個人的には「スカーレット」と呼ぶたび「オハラ」と繋げたくなってしまうダメ映画脳の持ち主ゆえに、名前への抵抗感があったりw
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