「アニメーションの技術は高いのに、中身が支離滅裂なので、「宝の持ち腐れ」のように思えてならない」果てしなきスカーレット tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメーションの技術は高いのに、中身が支離滅裂なので、「宝の持ち腐れ」のように思えてならない
「絵」は綺麗だし、アクションシーンの動きも滑らかで見応えがある。
しかしながら、物語の舞台となる「死者の国」の設定や世界観には、最後まで没入することができなかった。
これについては、あらゆる時代の、様々な地域の死者が集まる世界といった説明はあるのだが、その割には、主人公の身の回りの中世ヨーロッパの人々が、そっくりそのまま存在していて、生きていた時と同じような支配体制を構築している上に、その時代の武器を使って、その時代の戦い方をしているというのは、一体、どういうことなのだろうか?
その中に、現代の日本人の看護師が、たった1人だけ紛れ込んでいるということにも違和感しか覚えないし、死んでいる者を殺して「虚無」にする(殺されなかったら永遠に生きられるのか?)とか、「見果てぬ場所」が何なのか(天国?)とかといったことも最後まで意味不明で、「設定」そのものが破綻しているとしか思えない。
物語の鍵を握ると思われた日本人の看護師にしても、何のために登場させたのかがよく分からなかった。
法も秩序もない弱肉強食の世界で、争いをやめるように説く彼の姿は、平和ボケした能天気な日本人にしか見えないのだが、その一方で、この世界を司ると思われる老婆が、「お前は、何のためにこの世界に来たのだ?」と問う中で、てっきり「人々の命を救うため」だと思っていたら、弓と矢で、あっさりと2人の敵を殺してしまう姿を見ると、本当に、彼が「何のために来たのか」が分からなくなって唖然としてしまった。
さらに、彼と主人公が、渋谷の駅前で歌って踊るミュージカルのようなシーンでは、現在の日本が、あたかもユートピアであるかのように描かれていて、ここでも違和感を覚えざるを得なかった。たとえ、観客に、「この時代の平和な日本に生まれたことを感謝するべきだ」と伝えたかったのだとしても、「暗黒時代の中世ヨーロッパに比べて、現代日本はバラ色の天国だ」と言わんばかりの描写からは、日本人としての「思い上がり」が感じられて、日本人の自分ですら眉をひそめたくなった。
結局、この映画が、復讐心に囚われた主人公のことを、否定しているのか、肯定しているのかがはっきりとしないところも気になってしまう。
主人公の父親の前王が、殺される間際に、「自分の仇を許せ」と言っていたらしいということが分かると、たとえ、主人公が現王を許したとしても、「憎しみの連鎖を断ち切って、平和をもたらす」ことにはならないのではないかという疑問が湧いてくる。
案の定、主人公は、父の仇である現王を許すのだが、それで相手が改心するのならまだしも、こうした性根の腐った奴を許しても、みすみす返り討ちに合うだけで、主人公が、間の抜けたお人好しにしか見えないことには困惑してしまった。しかも、主人公が殺されかける寸前に、「正義」の空飛ぶ竜が、現王のことを成敗するという展開は、余りにも虫が良すぎて、ご都合主義にしか思えない。
さらに、その際、主人公は、父親が「自分のことを許せ」と言っていたのだと気づくのだが、復讐を果たすことだけを考えていた主人公を許すということは、主人公の復讐を容認し、推奨することでもあると解釈できて、「一体どっちなんだ?」と混乱してしまった。もしも、これが、「現王を殺した自分を責めるな」ということであるならば、やはり、復讐は、竜に任せるのではなく、主人公自身が成し遂げるべきであったと思えてならない。
それから、現王が、家臣達と揃ってこの世界にいるのは、てっきり、隣国に戦争を仕掛けて、逆に討ち滅ぼされたからなのだろうと思っていたのだが、エピローグで、誤って毒を飲んだ現王だけが死んだということが分かると、「じゃあ、どうして家臣達も死者の国にいたの?」という疑問が湧いて来て、最後までモヤモヤとした気分を払拭することができなかった。
いくらアニメーションの技術が高くても、これだけ中身が支離滅裂だと、何だか「宝の持ち腐れ」のように思われて、残念で仕方なかった。
今の渋谷とは、少し雰囲気が違うように感じたのですが、そういうことだったんですね。
ありがとうございます。
現王が、それほど人望があるようには、とても見えなかったのですが、それぐらいしか、理由が思い付きませんね。
スカーレットと聖が踊ってた渋谷は、一応10年くらい先に完成予定の光景みたいですね。
まぁ、10年でああなるとは誰も思わないでしょうけど。
兵士に関して可能性があるなら、現王は実はめちゃくちゃ人望があってみんな後を追った、くらいでしょうか。
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