「超絶難しいテーマを扱ったことについて考えさせられた作品」果てしなきスカーレット GOさんの映画レビュー(感想・評価)
超絶難しいテーマを扱ったことについて考えさせられた作品
映像は素晴らしい。とくにドラゴンはよかった。最後のモブ戦闘シーンは大迫力だ。
しかし、どうしても問題点ばかりが気になる作品だった。
普段私は作品の良かった箇所の感想を書いている。せっかく見た作品だ。良かったところを覚えておく方が得なはずだ。でもこの作品は、問題点について考えることの方に意味がある作品のような気がする。2時間程度では本当は語れないような「根深い問題」にチャレンジした作品なのだ。
この作品のテーマは「憎しみ」だ。主人公は父を殺された憎しみに囚われて生きている。大事な人を殺された憎しみは、まぁいいか、とはならない。それはときに戦争の要因になる。実際、今も続いているガザの戦争は憎しみの連鎖だ。憎しみは悲劇を生む。そんなのよくない。誰にでもわかる。でも「憎しみの連鎖」はずっと人類が解決できない問題だ。
この作品は、中世デンマークの王女スカーレットを主人公にしている。私たちとは境遇が大きく異なるスカーレットは、私たちと大きく価値観が違っているはずだ。なので普通の作品なら、スカーレットの物語を通して「私たちの価値観」を揺さぶる構成にするのが常套手段だ。でもこの作品は逆なのだ。現代人の「聖(ひじり)」を登場させることで、スカーレットに「現代の価値観」をぶつける。それを「憎しみの連鎖」を断つきっかけとして使う。これは無茶だ。中世の命を懸け戦う王女に、憎しみを捨てろと言わせるのは、現代人には荷が重すぎる。いくら命と向き合う仕事をしていたとしても、スカーレットに比べて言葉の重さが違いすぎる。スカーレットの境遇や苦しみにショックを受けて、聖の方が変わって行く方が自然な構成になっているのだ。なのになぜこの構成にしたのだろうか。
(ここからは私の想像なので的外れかもしれない。)
憎しみをテーマとして扱うなら「許し」を描かなければならない。それにはスカーレットにとって「許し」が如何に難しいか、を描く必要がある。中世の方が私たちより「恨み」は根深くて「許し」は難しかったはずだ。しかしそこを丁寧に描いていると時間が足りない。それだけで一大テーマだ。だからスカーレットを現代人の価値観に近づけた。現代の価値観を知ったスカーレットが「それでも許せない自分」と向き合う。そうすることで、観客が共感しやすくなる。観客は自分の価値観を変えることなく、スカーレットと一緒に「許し」の問題に向き合うことになる。そしてそこまで観客を連れて行ったあとで「許せない自分自身を許すこと」の大切さを描く。そうなっているのではないか。
この私の仮説が正しいなら問題は明らかだ。これだと観客は価値観を壊されない。今までの価値観の延長上に答えがあることになる。確かに「許すべきは相手ではなく自分自身」と言うメッセージは力のあるメッセージだった。それでも、スカーレットの方が私たちの方に寄って来てはダメだ。せっかく彼女の物語を見てきた私たちは、スカーレットの方にジャンプしないといけないはずだ。
この作品の問題点は、言うは易しだ。じゃぁ、どうすればよかったのかなんて私にはわからない。中世の王女の気持ちが、少しでも自分事として「わかった」と思えるためには、そこを丁寧に描く必要がある。それをやりながら、この作品が伝えたかったメッセージにたどり着くには、2時間程度ではぜんぜん無理だ。では、中世を舞台にせずに現代にすればよかったのだろうか?そうすれば共感の障壁は近いはずだ。いや、それだとこの作品の扱うテーマはリアルすぎる。戦争は今の私たちにとってリアルすぎてファンタジーにならないのだ。歴史物語にメッセージを仮託することは必要だったのだと思う。でも歴史物語の主人公が現代の価値観を語っていると、それはどうしても「薄っぺら」の印象になってしまう。
それでもこの作品が目指したところはとても共感する。志の高さは本当に素晴らしいと思う。映像美も素晴らしかった。間違いなく、見てよかった作品だった。
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