「幸せな人生とは」平場の月 SIDOさんの映画レビュー(感想・評価)
幸せな人生とは
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埼玉県朝霞市。高卒バツイチ一人暮らしの印刷工の男が人生の黄昏を迎えていた。平凡な住宅街に平凡な日常。胃カメラ検査の結果にびくびくするどこにでもいるような平凡な50代。しかし、ある日の偶然の再会により、錆びついていた日常が滑らかに動き出す。出会ったのは、木造アパートに一人で暮らす50代の女。男の初恋の相手だった。多感な時期に母親に見捨てられ、頼れるものは自分しかいない。図太く生きていくしかなかった。妻子ある男を奪い、若い男に貢ぎ、一文なしで故郷へ帰ってきた女。心の支えは男との淡い恋の記憶だけだった。欠けた月の光が照らす中、再会した二人の心は次第に無垢だったあの頃に戻っていく。互いに夢も希望も失いかけていたが、何物にも代え難い存在になっていく。普通の街を舞台に人生の折り返しを過ぎた男と女のリアルを堺雅人と井川遥が生々しくもナチュラルに演じきる。人生を振り返ってあらためて噛みしめる本当の幸せとは何なのか、中高年の誰もが身につまされる物語。終盤、絶望に叩き落とされた男がヘラヘラと不自然な笑顔を浮かべ平常を装う姿が逆に切ない。かつて震災の被災地で家族を失い茫然と道に立ち尽くしていた人の表情を思い出した。人は心が壊れてしまうほど悲しい時、思わず笑ってしまう生きものなのだ。笑顔からの最後の瞬間に魂が揺さぶられる。
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