「すぐそこにあった日常」木の上の軍隊 TSさんの映画レビュー(感想・評価)
すぐそこにあった日常
舞台原作、樹上生活の2人の物語・・・と聞いて、これは相当濃密な会話劇、心理劇なのだろうと思いながら観に行った。
いざ始まってみると、ずっと樹上にいるわけではなく、ずっと話しっぱなしでもなく、ずっと2人の心象風景を描くでもなく。樹上生活が落ち着くまでの激しく緊張感ある展開を除けば、どちらかというと静かに淡々と進む彼らの「終わりの見えない新しい日常」を描く物語のように感じた。
生命の危機下における緊張感、恐怖、怒り、そして助け合い、思いやりの精神。
一転、なんとか生きる術を確立してからの、緩み、笑い、抑えていた欲望の発散。
折れそうになりそうな心の棒を辛うじてつなぎ止めていた糸が、村人からの返事の手紙で切れた後の安慶名(山田裕貴)の魂に突き動かされるような表情と演技に惹きつけられる。
途中から、彼らが肩に背負っているライフルをいつ、どのように捨てるのかが気になっていた。背負ったまま人前に出るのだろうか?どんな形で、この生活を辞めるのか?
安慶名は、海を前にして、森の中に全てを投げ捨てた。そして真っ直ぐ海に向かった。
上官の山下(堤真一)は、砂浜を走り、安慶名に駆け寄りながらそれらを徐々に投げ捨てて行った。
この細かな違いが、戦をやめ、失われた日常に帰る2人の素の心の変化を上手く表現していたと思う。舞台ではできない演出だ。
戦争の悲惨さを、凄惨な戦闘シーンで伝えない。今すぐそばで生きていた者が一瞬で死に、日常が日常でなくなっていくことへの怒りと悲しみを、半ば「自己隔離」とでも言うような特殊な空間をサバイブする2人を通じて描く。新しい戦争映画。
そして、主演2人の演技に拍手。
共感ありがとうございます!
今年は戦後80年の節目の年である事と、少人数キャストで製作費を低く抑える流れがある事と、ちょうどいい舞台作品があった事が上手くマッチングしてこの作品が出来たと思っています。