ネタバレ! クリックして本文を読む
❶相性:中。
★事実を基にしたフィクション。
➋時代:1944~1947年。
❸舞台:沖縄県伊江島(いえじま)。
★沖縄本島の北西9kmに位置する面積23平方キロ(硫黄島と同等)の農漁村。昭和15年国勢調査による人口は6,800人(2025年は3,800人)。
★1943年、伊江島の土地を飛行場建設用地として強制接収、「東洋一」とよばれる計6本の滑走路建設に着手したが、1945年に大本営の破壊命令により自壊された。米軍の主要な攻撃目標となっていて1945年の「伊江島の戦い」で、一般住民約1,500人を含む4,700人余が犠牲となった。住民は沖縄戦における集団自決に追い込まれた。生き残った島民は米軍に収容され、北部の収容所や阿嘉島に移送された(出典:Wikipedia)。
❹主な登場人物
①山下一雄(堤真一Shinichi Tsutsumi、60歳):宮崎から派兵された厳格な少尉。敗戦を知らず、安慶名と二人で2年間、ガジュマルの木の上に身を潜めて生き延びる。
②安慶名セイジュン〔あげな・せいじゅん〕(山田裕貴Yuki Yamada、34歳):沖縄出身の新兵。故郷と家族への想いを胸に生き抜こうとする。敗戦を知らず、山下と二人で2年間、ガジュマルの木の上に身を潜めて生き延びる。
③与那嶺幸一〔よなみね・こういち〕(津波竜斗Ryuto Tsuha、30歳):セイジュンの幼馴染で友人の新兵。
④長田〔ながた〕(玉代勢圭司Keiji Tamayose):沖縄出身の兵士。
⑤松尾中尉(尚玄Shogen):沖縄出身で、沖縄本島から派兵された中尉。
⑥池田中尉(岸本尚泰Masayoshi Kishimoto):島での飛行場建設を進める中尉。
⑦安慶名郁子〔あげな・いくこ〕(城間やよいYayoi Shiroma):セイジュンの母。
⑧農道の農民男(川田 広樹(ガレッジセール)Hiroki Kawata):
⑨宮城(山西 惇Atsushi Yamanishi):アメリカ軍の捕虜となったことのある沖縄出身の島民。
❺考察
①冒頭に「事実に基づく物語」と出るが、複数のネット情報を調べた結果、正しくは「事実を基にしたフィクション」と言うべきである。
ⓐ映画では、経験豊富な将校と新兵の構図になっているが、実際は共に1944年に召集された兵卒。
ⓑ二人は2年間ガジュマルの木の上に身を潜めて生き延びたことになっているが、実話では木の上にいたのは6日間だったそうである。(出典:【映画 木の上の軍隊 ネタバレ徹底解説】YOSHIKIのMOVIE SELECTION’S 2025.07.27)
②島で孤立した日本兵が、敗戦を知らずに潜伏していた例は幾つもある。その期間は数か月から数十年に及ぶ。
有名な例では、
ⓐグアム島のジャングルに28年間潜んでいた横井庄一氏(1915-1997)、軍曹。
ⓑフィリピン・ルバング島の山中で30年間過ごした小野田寛郎氏(1922-2014)、少尉。
③彼らは途中で敗戦を知ったが、何かの理由で投降できなかったものと見られている。その理由は、投降の機会を逃したことに対する悔恨の念があったためと考えられている。国への忠誠を誓い、「命令には絶服従」し、「逃げ隠れや降伏は恥」の価値観を叩きこまれた結果と思われる。
④本作の上官・山下一雄と部下・安慶名セイジュンは、外部からの情報が完全に遮断された極限状況下に置かれ、恐怖と飢えに耐えながら、ひたすら援軍を待ち続けるのだが、二人の価値観は大きく異なる。
ⓐ山下の場合は、厳格な軍国教育を受けていて、上記の横井氏や小野田氏に共通する。山下は、終盤で敗戦を知ったが、それを安慶名に隠した。
ⓑ沖縄出身の新兵、安慶名の場合は、軍国教育が染みついておらず、自由な発想が残っていたと思われる。国よりも家族や故郷の方が大切だったのだ。
⑤これとは逆に、欧米では、降伏は恥ではなく、映画『大脱走(1963米)』で、ビッグXが、「捕虜の最大の使命は脱走して敵を攪乱することだ」と言っていたように、捕虜になっても戦うチャンスはあるとされている。
⑥当初は山下の指示通りに動いていた安慶名が、共同生活を続けるうちに、次第に自主性を発揮していく過程が興味深い。
⑦アメリカ映画『太平洋の地獄(1968)』は、登場人物がたった二人だけの異色作。太平洋戦争末期に、南太平洋の孤島にアメリカ兵・少佐(リー・マーヴィン)と日本兵・大尉(三船敏郎)とが漂着する。言葉が通じない二人は敵同士で対立するが、やがて生き延びるために力を合わせていく。戦いの虚しさを知った二人は正装し、敬礼し合って別れていくという物語で、本作と共通点がある。
❻まとめ
①本作からは戦争の無益さと生きることの尊さが伝わる。
②戦争を美化していないので好感が持てる
③かって、このようなことがあったという事実を知ることは、戦争というマイナスの歴史を風化させず、平和への願いを繋ぐことになる。
④舞台となった伊江島は、現在、島の面積の35%が米軍基地となっていて、戦争の傷跡が色濃く残っているそうである。
⑤戦後80年を迎える節目の年に、沖縄出身の監督が全編沖縄ロケで、本作を発信したことは、大変意義があると思う。
⑥惜しむらくは、映画としての描き方が平面的で、インパクトが弱かったこと。戦争の実態はもっと悲惨で残酷だと思う。
❼参考:舞台劇『木の上の軍隊』&こまつ座(出典:Wikipedia)
①『木の上の軍隊』:井上ひさし原案、蓬莱竜太作、栗山民也演出、藤原竜也主演で、こまつ座&ホリプロ公演として2013年4月に東京・Bunkamuraシアターコクーンにて初演された。沖縄県の伊江島を舞台に、終戦を知らぬまま2年間ガジュマルの木の上で生活した2人の日本兵の物語を実話をもとに描いた三人芝居。【登場人物(初演)】新兵:藤原竜也、上官:山西惇、語る女:片平なぎさ。
②こまつ座:1983年結成。井上ひさし作の戯曲のみを上演する演劇制作集団。代表は井上ひさしだったが、井上がガン告知された2009年から三女の井上(石川)麻矢が代表を務めている。立ち上げ時の座長は当時の妻であった好子であり、1987年から2001年までは長女の井上都が代表を務めた。