「無自覚な大人は、子ども世界のヒエラルキー要因になっていることに気づいていない」Playground 校庭 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
無自覚な大人は、子ども世界のヒエラルキー要因になっていることに気づいていない
2025.3.11 字幕 アップリンク京都
2021年のベルギー映画(72分、G)
子どもの視界から見える世界を描いたスリラー映画
監督&脚本はローラ・ワンデル
原題は『Un monde』で「世界」、英題は『Playground』で「遊び場」という意味
物語の舞台は、ベルギーのとある小学校
7歳になったノラ(マヤ・ヴァンダービーク)は、10歳の兄アベル(ガンダー・デュレ)と同じ小学校に通うことになった
怖さからパパ(カリム・ルクルー)にしがみつくノラだったが、先生に引き剥がされて連れて行かれてしまった
ある日のこと、ノラは学校のトイレにて、便器に顔をぶち込まれているアベルを見てしまう
慌てて監視員を呼びにいくものの、監視員は目の前の怪我をした子どもの相手をしていて取り合ってくれない
仕方なくトイレに戻って兄に話しかけると、「構うな、誰にも言うな」と釘を刺されてしまった
その後も、アベルはアントワン(Simon Caudry)を中心としたグループにいじめを受けているようで、ノラは耐えきれずにパパに伝えてしまった
パパは学校を介さずに該当生徒に注意をするものの、それによっていじめはさらにエスカレートしてしまうのである
映画は、子ども目線による学校を描いていて、カメラの高さもノラの目線に近いまま固定されている
彼女が見ている世界は明確に再現され、大人は彼女と同じ目線にならないと視界に入ってこない
冒頭の連れ去る先生も遠くに行ってからようやく顔がわかるように描かれていて、授業中に注意をする先生もほとんど視界を合わせには来ない
ノラは水泳が苦手だったが、その授業を機にヴィクトワール(Elsa Laforge)とクレマンス(Lena Girad Voss)と仲良くなっていく
また、担任のアニエス先生(ローラ・ファーリンデン)は、彼女の目線にまで体を下ろして、同じ高さで接してくれる唯一の存在だった
物語は、兄を助けたい妹が動き、それに感化された父親が動くことで事態が悪化する様子が描かれていく
校内には監視員がいるものの、校庭で堂々と行われているゴミ箱に放り込む行為とか、イスマエル(Naël Ammama)がビニール袋で頭を覆われている行為などには気付けていない
トイレのいじめも複数の生徒がトイレの前に集まっているのに、大人はそこには寄ってこない
それが人員不足がゆえなのかはわからず、あくまでもノラが捉えた世界で知り得た情報のみが描かれていく
また、アベルがいじめられている原因はわからないし、彼もそれを語らない
ノラが介入し、ゴミ箱の事件が公になったことで事態は動いていくのだが、それでもいじめがなくなるわけではなく、別の子どもが犠牲になってしまう
子ども社会における「どちら側につくのか」と言う問題は避けられず、何かしらのコミュニティに属しないと、ストレスの捌け口になったり、単なる面白さの対象になったりしてしまう
この時に生まれるヒエラルキーというものは後の人生に大きく影響するのだが、それはこの時に大人がどう動いたかというところも起点となっていく
アベルたちのパパはいじめを辞めさせるために介入するものの、子ども目線だと「働いていない大人」なので、彼の言動には説得力も重みもない
子どもにとってのアイデンティティの構成要素の一つには「親の社会的地位」というものが付随し、それ以外にも「母親が美人である」とか、「兄弟が優秀である」というものもアイデンティティの中に組み込まれがちだったりする
それらが本人の評価とは無縁であることは理解できても、ヒエラルキーを作る要因になっているので、それを理解していない大人が首を突っ込むとロクなことにはならない
それは、アベルたちがパパを誇りに思えないのと同じで、それゆえにパパの介入は自分にとって不利益であることを感じている
頼るべき家族の質というものがそれに拍車をかけるので、今回のケースの遠因として、父親の無職状態というものが影響しているのは否めないのだろう
いずれにせよ、視界を重要視する映画で、ほとんどのショットがノラの目の高さで再現されている
見えている部分と見えていない部分があるのだが、ノラ自身はきちんと見るべきものを捉えている
問題は、見ないと決めたものでも見てしまうようになり、それが思考の全てを支配してしまうことだろう
これは大人でも起こり得るものだが、ノラの年齢だと「それが思考のすべて」になってしまう
そうした先にある感情の起伏というものがとんでもない行動を生み出すのだが、ノラの場合は「アベルと一緒にいて、彼を取り戻したい」というものだったので、それが最後の行動になっていた
その先に何があるかを考えることもないのだが、おそらくは自分とアベルの世界を守るためだけに動いていくと思うので、その原因を除去する方向に動くのかもしれない
もっとも、その前に大人がノラとアベルを排除すると思うので、このような対応をしている限り、同じようなことは続いていくのかな、と感じた