「渾身の一作」リライト Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
渾身の一作
マルチバースも伏線回収も好きじゃないけど、やるなら、これくらいやって欲しいね。
良く練られてた。
マルチバースなのかなと思って観てたら、ロープウェイで「お好きなんですね」って言われたり、お祭りで「何回、商売の邪魔すんだよ」って言われたりで、同じことを何回も繰り返してるんだなって分かってくるの。
タイムリープを複数回やるから「一巡目の僕」「二巡目の僕」って感じで同一時間に複数人の僕が存在しちゃうパターンなんだね。
シーンでは、合唱でスピッツ歌うんだけど、クラスでやる合唱じゃねえぞってレベルでうまかった。役者さんは発声がきちんとしてるから、歌うまいんだよね。そこ調整かけずにガチで歌ってる感じだった。
旧校舎が崩れたときに池田エライザが迷わず走って家に戻って薬を飲むんだよね。ここの躊躇ない疾走感が良かった。
中学二年で、好きな人が下敷きになったかも知れないと思ったら、後先考えずにやるよね。
同窓会に行く前の日、池田エライザは旦那と話して、この旦那ちょっとウザい感じも個人的にはしてたんだけど、良いこと言って、エライザが「そっち行っていい?」って言うの良かった。もう14歳じゃないからね。
ストーリーは「なんで?」って転がってる間は面白いね。
ネタバラシが終わって「では動機は」ってなると、やっぱりちょっと弱いの。
大仕掛けに対して、十分な動機を持ってくるの難しいもんね。
ラストは「そりゃ、橋本愛を使うんなら、そうですよね」とは思ったな。
でも綺麗な落とし方で、ループも閉じて、良かったよ。
上田誠も松居大悟も、単独で作品つくると癖が強すぎるんだよね。
上田誠は仕掛けが鼻につくし、松居大悟は思わせぶりが「わかんねえよ」になるの。
でも、この作品は、両者の鼻につくところが消えて、うまくまとまってた。
エンディングがクリープハイプじゃないから癖が弱く思えたってのもあるかもだけど。
うまくまとまったのは、原作の良さもあるかなと思って、読んだのね。
映画脚本の方が、断然いいね。
原作は練ったアイデアを「それで?」「どうなる?」って叙述もうまいこと使いながら見せてるだけで、最後はまとめきれず放り投げて終わってるしね。良く、この原作を、映像化しようと思ったなと思うよ。
それを、綺麗にまとめてきた上田誠はすごい。けっこう根本的なところ変えてるからね。
それでも本作から、ギミックみたいなところを抜いたら何が残るかというと、あんまり残るものないね。
初恋に対する執着みたいなのはあるかな。
未来人なんか来なくたってさ、中学二年の夏休みで、一緒に夏祭りに行く人がいたら、自分が主人公の夏だよね。
それがしかし自分だけでなかったら……と気持ちは分かるけど、10年経ってたら、まあ、許すよ。
さりげなく良い役者さんも出ていて、上田誠・松居大悟の渾身の一作と思ったな。
また組んでやって欲しいと思うけど、良い原作がないと難しいかな。