「全体に薄味ではあるが及第点の復讐エスピオナージュ。「師匠」が「刺客」の設定は燃える!」アマチュア じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)
全体に薄味ではあるが及第点の復讐エスピオナージュ。「師匠」が「刺客」の設定は燃える!
やっとこさ今抱えている仕事にひと段落がついたので、久々に映画館にでも足を運んで、時節柄『教皇選挙』あたりを観ようかなと思ったのだが、ふと映画館のタイムスケジュールを確認していて、『アマチュア』と『プロフェッショナル』を続けざまに観られることに気づく(笑)。
『アマチュア』と『プロフェッショナル』をセットで鑑賞!
ああ、なんてわくわくする思いつきだろうか。
こういうくだらない「マイ・プログラム」を考えるのも、
映画館に通う楽しみのひとつである。
『バードマン』と『ドッグマン』と『モンキーマン』で「桃太郎」三本立てとか、
同日に『レザボア・ドッグス』と『バッド・ルーテナント』をハシゴして、ハーヴェイ・カイテル祭りとか。
というわけで、一本目は『アマチュア』。
ラミ・マレックって、『ボヘミアン・ラプソディ』の印象が強いから、てっきりパキスタン系かと思ってたら、エジプトにルーツのある人なのね。
そういわれれば、そういう顔立ちかも。
基本的には、ふつうによく出来たスパイ・スリラーでした。
なんていうんだろう?
よく出来てるけど、ちょっと薄味というか。
映画特有の臭気やエグ味が足りないというか。
なんとなく、TVくさいんだよね(笑)。
結構お金のかかった、Netflixとかの制作してる
オリジナル・ドラマを観ているかのような印象。
完成度が高くて、精緻に仕上げてはあるんだけど、
あっさりし過ぎていて、さらっと見られちゃう。
主人公は奥さん大好き。復讐に燃える。いいやつ。
CIAの上官は、いかにものろくでなし。悪いやつ。
奥さんの仇のテロリストも、わかりやすい悪玉。
話の展開も、すっきりしていて、ひっかかりがない。
ラストも思ったよりスイートで、毒気がない。
まあ……娯楽映画だから、それでいいんだけどね。
全然、悪くないんだけど……。
あまりに手際良く、わかりやすく、クセのない調子で、突出した作家性を徹底的に無臭化したうえで、卒なくまとめてあるので、いまひとつ作品に愛着が湧かない。
最近のアクション映画ってのは、こういう調子なのかなあ、と(笑)。
自分は70年代あたりのクセの強い映画群に愛着が強いタイプなので、このテイストだとちょっと物足りないかも。
― ― ― ―
物語の構造としては、典型的な復讐ものの類型をとる。
「4人」を順番に倒していくという構造は、フランソワ・トリュフォー監督の『黒衣の花嫁』(コーネル・ウールリッチ原作、ただし標的は5人)や、ついこのあいだ観たサミュエル・フラーの『殺人地帯U・S・A』を想起させる。
まあ、『キル・ビル』だって、敵は5人だったけど順ぐりに倒してたよね。
最近の復讐系アクション映画だと、主人公は元スパイとか、元特殊部隊員といった超凄腕の設定で、家族を殺されたリベンジとして、ひと組織をまるまる壊滅させるみたいなド派手なお話が多く見られるが、本作はその手のエスカレーションからは敢えて一線を引いたスタンスをとっている。
本作のキーワードは「アマチュア」。
主人公のチャーリーは、CIAの情報分析官としては凄腕であり、高度のハッキング能力と情報探査能力を備えている一方で、腕力や武器に訴えるほうは、からきしダメ。
いるよね、そういうの。
暗殺技術は高いけど、喧嘩はめっぽう弱い『必殺仕業人』のやいとや又右衛門とか。
詐欺師としては天才だけど、荒事は苦手な『特攻野郎Aチーム』のフェイスマンとか。
そんな彼が、妻を殺したテロリストたちへの復讐を決意する。
でも、彼には武装したテロリストたちを殺す技量がない。
そのとき、彼が取った手段は、思いがけないものだった。
上司の不正の証拠を押さえたうえで、それをもとに上層部を脅迫することで、暗殺者としての短期訓練プログラムを受講しようとするのだ。
(ちょっとここに関しては、展開に無理がないでもないw)
人を殺すこと。
世間的には、当然良くないとされる行為だ。
だが、軍や警察組織では、相手を殺す方法を学ぶ。
戦闘中の敵軍や、犯罪組織に相対すれば、
必ず必要となってくる技術。それが「人殺しの技術」だ。
単に、銃が撃てるとか、相手の急所を突けるとか、
それだけのことではない。
重要なのは、「一瞬の判断が要求されるシチュエーションにおいて、本当に相手の命を絶つことを即決できるかどうか」ということだ。
いうなれば、人殺しには、「一線を踏み越えられるマインドセット」が必要とされるのだ。
その準備のない人間、それが出来ない人間は、
いつまでたっても「アマチュア」でしかない。
本作では、「人を殺せるタイプではない」人間が、
キョドりながら、ビビりながら、
ターゲットを順ぐりに仕留めていく過程が描かれる。
当然、最初のオペレーションでは、うまくいかないことが多発する。
最終的には偶然なんとかなっただけで、流れとしてはほぼ失敗したようなものだ。
そこから、彼は考え方を変える。
直接対峙方式から、ブービートラップ方式に切り替えるのだ。
チャーリーは、彼なりのやり方で、
一人、敵をほふるごとに、
一人、仲間を喪うごとに、
「プロフェッショナル」へと成長してゆく。
― ― ― ―
この映画でなんといっても「美味しい」キャラは、ローレンス・フィッシュバーン演じる「ヘンダーソン教官」だろう。
かつての軍事教練の「教官」が、のちに「刺客」として派遣されてくるという胸アツ展開に、大昔に読んだ船戸与一の『猛き箱舟』を思い出して胸をふるわせる(あれも後半は敵を順番に始末していくタイプの復讐譚だった)。そういや、前出のやいとや又右衛門(大出俊)も、育ての親の大滝秀治と対決する回があったな。
このローレンス・フィッシュバーンが、鬼軍曹でありながら、どこか人間味があって、ホント良いキャラなんだよね。
やっていることがフェアで、敵に回ってからもどこか気にかけてくれていて、チャーリーからも「友」と呼ばれたりしている。
本当なら、復讐劇のほうより、師匠Vs.弟子の対決のほうをメインにした話を観たかったくらいだ。こういう関係性(最初は圧倒的な力量差があり、見下ろされていたキャラクターが、いつしか師匠と対等に戦えるだけの技量を得て、やがて相手からも一目置かれるようになる)は、どんなシチュエーションでも、ぐっと胸をかきたてるものだ。
もう60代だとはとても思えない元気なフィッシュバーンが、撒いても撒いてもターミネーターのように迫って来るシークエンスは、なかなかに見ごたえがある。
その他、肝要な節目節目で、美味しいところを全部かっさらっていて、ちょっとラミ・マレックが可哀相なくらいだった。
― ― ― ―
●敵のテロリストは4人とも白人で、
復讐者はアラブ系(役者はエジプト系)、
奥さんは白人、訓練官は黒人。
CIAの上官が白人、副官が黒人、情報官が東洋系。
やたら考え抜かれた人種構成に笑う。
あと、CIA長官と協力者は女性。
『インデペンデンス・デイ』以降、
細心の注意を払って人種・性別を配するのが
キャスティング担当の最重要任務となって、
もう30年になるんだな……。
●ロンドン、マルセイユ、イスタンブール、北海沿岸と
国と風景を変えながら、国際規模で話が展開するあたりは、
まさに『007』あたりのスパイ映画を、明確に意識しているんだろうね。
●本作にはロバート・リテルの原作(1981)があって、
日本でも『チャーリー・ヘラーの復讐』のタイトルで
1983年に新潮文庫から訳書が刊行されている。
ロバート・リテルは、80年代から90年代にかけて、
早川、文春、新潮あたりで結構翻訳が出ていた印象。
●さらに、本作はすでに一度映画化されていて、『ザ・アマチュア』のタイトル、チャールズ・ジャロット監督、ジョン・サヴェージ主演で1981年に公開されている。
小説の発売と映画公開が同年ってどういうこと? と思ったが、どうやらロバート・リテルは「先に映画の脚本のほうを書いて」「後から映画公開に間に合うようにそれをノヴェライズした」というのが本当のところらしい。
ネットで予告編だけ観てみたが、なんと「ガラスのプールを爆発物で破壊して、泳いでいる敵を倒す」というネタは、前の映画からすでに存在するらしい!
映画脚本ありきのお話だから、あちこちに映像「映え」するシーンがちりばめてあるってことだろうね。
あらすじを見る限り、いろいろと細部の設定は新旧映画で異なるようだが、大まかな話の流れや展開は、原作および旧作を踏襲しているようだ。テロリスト・サイドに女性が一人混じっているのも、旧作通り。
ただし、旧作のほうは、出ている俳優陣は見事なまでに白人ばかりで、そういう意味では、とてもポリティカリー・コレクトな配役のリメイク作と言える。
●細かいところでいうと、ジュークボックスで秘密データをどうしたのかよくわからないとか、上層部は脅されたからといってあんなに素直にチャーリーに訓練を受けさせるものだろうかとか、クリニックの衆人環視下で拷問(花粉で窒息)して口を割らせようとするのはさすがにどうかしているとか、あれだけ顔認証で追尾されているのに一向に顔を覆ったり変装する気配がないのはどうしたことかとか、後から偽の顔情報をいくらばら撒いても素顔で飛行機とか乗ってたらバレるのではとか、一方的に協力者を巻き込んだあげくにあんなことになった割にこいつまあまあケロッとしてるなとか、あの流れでいきなり女性長官サイドの殺し屋が割り込んできてヘンダーソンとやり合うのは興ざめだとか、二番目・三番目のテロリストが油断し過ぎで辛いとか、奥さんの幻影シーンが山ほど出てくる割になんの落ちもないのでがっかりしたとか、終盤でCIAの友人がいきなり北欧の街を訪ねてくる経緯や作品上の意図が良くわからないとか、最後のテロリストの親玉は舐めプしてないで早く撃てよとか、いろいろツッコミたいところはあるのだが、極端にそこまで気になるシーンというのはなかった気がする。
●もともとエスピオナージュというジャンルは、エリック・アンブラー、グレアム・グリーン、ジョン・ル・カレ、ブライアン・フリーマントルと名だたる作家たちの作品を順に想起してみたところで、軍属が主人公を務めるミリタリー・アクションに比べると、明らかに「地味」なジャンルなわけで、作品のテイストが「地味」であること自体は、むしろ肯定的にとらえられるべき部分だと思う。
スパイものは「地味」であるくらいが、ちょうど良い。
どちらかというとそれよりも、全体に「深み」に欠ける部分のほうが、個人的には気になるといったところか。
総じて、奥さんを亡くした「悲しみ」が「軽い」し、
テロリストたちに対する「怒り」も「軽い」し、
復讐を成し遂げた「達成感」も「薄い」。
そのへんがもう少し「映画らしい」装いで盛られていたら、もっと楽しめたんだろうけど……まあ、過不足ない出来の映画ではあったと思う。
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