「「ラム酒」と「酒造り」にも愛と真心を」風のマジム 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
「ラム酒」と「酒造り」にも愛と真心を
2025年9月は本作と「宝島」、沖縄を舞台にした劇映画が2本立て続けに公開された。フィクションではあるが、この「風のマジム」では21世紀の那覇や大東島の人々の暮らしぶりに、そして「宝島」では米軍統治下の沖縄で抗い模索した若者らの姿に触れて、観客の多くは沖縄をより身近に感じられたのではないか。
原作は原田マハの小説で、実話に基づく。那覇で暮らす若い女性会社員・まじむ(伊藤沙莉)が、サトウキビを原料とするラム酒の美味しさと、沖縄県産サトウキビで作るラム酒がないことを知り、社内ベンチャー企画公募を機に「南大東島産ラム酒造り」プロジェクトを立案、さまざまな困難を乗り越えながら実現に向けて奮闘する姿を描く。ちなみに、もともと沖縄電力傘下の通信会社社員だった金城祐子さんが企画を実現させ、南大東島産ラム「CORCOR(コルコル)」を生み出した話がベースになっている。
女性主人公が興味を持った未知の分野に根気強く挑み、前例のない挑戦に消極的な周囲の人々をも巻き込んで、大きな夢や目標を実現していくという大筋は、伊藤沙莉の代表作になった2024年のNHK朝ドラ「虎に翼」に通じる。小柄ながらエネルギッシュで明るくポジティブな伊藤のイメージが「虎に翼」と同様、まじむのキャラクターにも活きている。
ただし、酒好きの一人として残念なところもある。まず、ラム酒自体の魅力を伝える描写が少ないこと。砂糖精製時に出る廃糖蜜を原料とする伝統的なラムに対し、サトウキビ汁で作る貴重なアグリコールラムの味がどう違ってどれくらい美味しいのかを、もちろん味そのものを伝えるのは不可能ながら、香りや味わいを体験したときの表情や言葉に、照明や音響効果もあわせた映像でもっと印象的に表現することはできなかったか。また、ラム酒造りの工程を映像で描くこともなく、醸造家・瀬名覇(滝藤賢一)の参加が決まったあとの蒸留所での描写もごくわずか。ラム酒造り未経験のチームが新商品を開発するのだから、理想の味に近づけるための試行錯誤も相当あったはずで、それも興味深い見所の一つになり得たのでは。映画の作り手がラム酒と酒造りにも愛と真心をもっと注いでくれたらよかったのにと思う。
