「ヒュー・グラントの独壇場」異端者の家 たけはちさんの映画レビュー(感想・評価)
ヒュー・グラントの独壇場
結構面白かったです。
ただ自分の場合は、幼い頃から親に逆らって、キリスト教プロテスタント、ホーリネス系の単立教会に通い、小六で洗礼を受け、高3の頃には神学校を志望し、その後神秘主義に惹かれたり、性的な誘惑に晒される等して信仰を捨てた経緯があるので、やはりキリスト教もしくは神学的関心があまりない人には、前半はかなり厄介でいささか説教臭い内容かなと思う。
熱心なモルモン教徒の女の子二人(ソフィー・サッチャー、クロエ・イースト)は、ゴシックホラーの典型のような屋敷を訪れると、ヒュー・グラント演じる、一見リベラルな穏やかそうな男リードに迎えられる。ところが居るはずの妻は一向に姿を現さず、雨が激しい吹雪に変わる中、次第に彼の饒舌な宗教論に翻弄され、閉じ込められたことに気付く…という物語。
モルモン教自体、キリスト教異端なわけだが、リードという男は輪をかけて面倒というか狂気の入った無神論者だ。監督のスコット・ベック&ブライアン・ウッズのインタビューをみると、彼のキャラクターのために参考にした人物の一人が、リチャード・ドーキンスと言うのは、一般的に宗教心が薄く、無神論に無警戒な日本人にはちょっと驚きではないだろうか?
冒頭で少し書いたが、多少の信仰心があった自分にも、この男のキャラクターにはいろいろ自身を振り返るところもあり、訪れたモルモン教徒の一人が「現代は信仰心が一般的に薄い」といったリードの話に首肯してしまう場面には、思わずなるほどと考えざるを得ない気分にさせられた。
とにかく饒舌なリードの話に誘われ、未熟なモルモン教徒の二人は彼の導くままに罠にハマるのだが、面白いのは前半二人のリーダー的に振る舞っていたソフィー・サッチャー演じるシスター・バーンズが、物語後半の展開点で意外な策略に遭い、前半頼りなく見えていたシスター・パクストン(クロエ・イースト)の存在感が急に高まることだ。
この展開には賛否が割れる気がするが、全体にホラーというより神学論争の体を成す本作において、アクション的見せ場を創るには悪くない選択の気はした。
屁理屈が多く、ともすれば冗長なリードの独壇場になってしまいがちな本作では、美しい画作りと、理知的な構成美(ヒッチコックタッチ?)が物語を救い、映画的感興を呼び起こしてくれる。途中リードの話にあった「胡蝶の夢」の喩えを聞いたときは、なんとはなしに「潜水服は蝶の夢を見る」という映画も思い出してしまった。
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