異端者の家 : インタビュー
A24サイコスリラーで“最恐の奇人”演じたヒュー・グラント 「エクソシスト」がトラウマ、実はホラーが苦手…と明かす

Photo by Gilbert Flores/Variety via Getty Images
ヒュー・グラントが悪役を務め、天才的な頭脳を持つ男が支配する迷宮のような家に足を踏み入れた2人のシスターの運命を描いたA24製作の脱出サイコスリラー「異端者の家」が公開された。本作で、これまでの好紳士的な役のイメージを大きく裏切るミスター・リード役が高く評価された、ヒュー・グラントがオンラインインタビューに応じた。(取材・文・写真/映画.com編集部)

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布教のため森の中の一軒家を訪れた、ふたりの若いシスターが、優しげな家主の男性リードの招きで家に入ることに。シスターたちが布教を始めると、リードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開。不穏な空気を察した2人は密かに帰ろうとするが、玄関の鍵は閉ざされており、携帯の電波もつながらない。実はその家には、数々の恐ろしい仕掛けが張り巡らされており、シスターは巧妙なリードの話術に追い込まれていく……という物語。
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――ゴールデングローブ賞の主演男優賞にもノミネートされた、奇妙で恐ろしい男、ミスター・リード役は、あなたのキャリアの新しい代表作の一つになったと言っても過言ではないでしょう。役作りについて教えてください。
この脚本を読んだ時に、何か自分なりのアイデアを出せるという確認がありました。その1つが大学教授です。かっこよい雰囲気で、学生たちの前では親しみやすく、その一方でややバカっぽい側面も見せられるような人物です。そういう人がサイコパスだったら面白いんじゃないかと監督に提案しました。
学生たちに最初は好かれるけれども、やっぱり変だと感づかれて、だんだんみんなが遠ざかっていく――ミスター・リードはずっとおそらくそんな人生を送ってきたんじゃないかと。人気者になろうとするけれども、なぜか人が遠ざかってしまって、その理由が自分でもわからない。だから友達がいない。シスターの2人が彼の家を訪れた日も、3人で楽しくパーティーをやろう、そんな気分でコミュニケーションを始めるものの、やっぱり2人を遠ざけてしまう――そういう人物像を考えました。

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――シスター役のソフィー・サッチャー、クロエ・イーストも、ベテラン俳優であるあなたに引けを取らない見事な演技を見せました。世代の異なる若いふたりの女優との共演、現場でのコミュニケーションの取り方について教えてください。
現場で他の役者やスタッフと会話をして、お互いを知ることが好きなので、彼女たちとはお喋りもしました。ふたりともすごく優秀な役者で、若いのにとても落ち着いているんです。自分が緊張するタイプなので、なぜ彼女たちが現場であんなにクールにいられるのか不思議でした。その答えを探りながら撮影を進めましたが、その答えは得られないまま、撮影が終わってしまいましたね(笑)。

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――欧米諸国ほどキリスト教徒が多くはない日本でも、人間の心と宗教について考えを深めることができる知的な面白さのある脚本です。あなた自身も、本作を通じて個人的な信仰とは別に、一般的な宗教というものに関して新しい考え方や視点を持ちましたか?
私自身、幼い頃は家族で教会に通っていましたが、14歳くらいだった頃、自分の中で無意味に感じて行くのを止めました。私のきょうだい、最終的には父親もその考えに共感して、唯一、母だけが今も教会に通っています。ですから、私は無神論者です。この作品でミスター・リードが宗教や無神論者について、多くのことを語りますが、私自身、今まで知らなかったことがたくさんありました。その1つが、キリスト教の教えが、その100年以上前から存在した他の宗教の一部として存在していたということ。このような新しい事実の発見に驚きました。

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――ミスター・リードは、一度この映画を見たら生涯忘れられないようなキャラクターですし、あなたにしか演じられない役だと思います。あなたご自身はこういったサイコホラー、スリラーのジャンルを好んで見ることが多いのでしょうか? また、気に入っているホラー作品や悪のキャラクターがいたら教えてください。
実は、私はホラー映画が苦手なんです。特に、悪魔が嫌いです。キリスト教の文化圏では神がいて、悪魔がいて、人生で悪事を働くと地獄に落とされ、悪魔にフォークのようなもので刺されて、火で燃やされる……子ども時代からそういうものに対する恐怖を抱えていました。同時に、その頃「エクソシスト」を見て、ものすごく怖くて、今でも3週間に1回夢に出てくるくらいトラウマになっています。

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――では、今回の恐ろしいミスター・リードを演じるにあたって、あなたが想像する悪魔的なものを自身で体現した、ということでもあるのでしょうか?
悪魔を演じるというよりも、ミスター・リードの悲劇的な部分、友達がいない孤独な部分を強調したいと思いました。悪役を演じる時に、あまりにもあからさまに悪役だとつまらなく見えてしまう、その裏に潜む怒りや悲劇、そういうものを探って表現することによって役に深みが出て、より恐ろしく見せられると考えたのです。