「相当グロいので、ステーキを継続して食べたい人は避けた方が良いと思います」ストップモーション Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
相当グロいので、ステーキを継続して食べたい人は避けた方が良いと思います
2025.1.30 字幕 アップリンク京都
2023年のイギリス映画(93分、PG12)
母の意思を受け継ぐ娘の葛藤を描いたサイコホラー&スリラー映画
監督はロバート・モーガン
脚本はロバート・モーガン&ロビン・キング
原題の『Stopmotion』は、映画に登場するコマ撮りアニメーション映画のこと
物語の舞台は、イギリスのどこか
ストップモーション映画のレジェンドであるスザンヌ(ステラ・ゴネット)を母に持つエラ(アシュリン・フランシオーシ)は、関節炎で手を動かせなくなった母の代わりに、彼女の脳内にある物語を再現しようと試みていた
だが、微細な動きを表現できないエラは、幾度となく母親の叱責を受けてしまう
母の考える物語がつまらないと感じても、新しいアイデアを打ち出せるわけでもなく、ただひたすらに母の手先として動いていた
彼女には建設会社で働いている恋人トム(トム・ヨーク)がいて、彼の姉ポリー(セリカ・ウィルソン=リード)もストップモーションの映像作家だった
ある日のこと、スザンヌが倒れてしまい、そのまま救急病院に運ばれることになった
脳卒中を患っているとのことで、呼吸器をつけたまま意識が回復することはない
エラは、母親の映画を完成させようと作業を続けるものの、全くイメージ通りの映像が撮れずに行き詰まってしまう
そんな彼女の元に、新しいスタジオが入っているビルの住人と思われる少女(ケイリン・スプリンゴール)がやってきた
少女は母の考えた話がつまらないと言い出し、自分で考えたお話を始めてしまう
それは、ある森に迷い込んだ少女が謎の存在に追われるというもので、エラはその物語に惹かれてしまう
そこで、母の映画を中止し、少女の言われるがままに、その物語の映像を作り始めるのである
映画は、ストップモーションと実写を組み合わせた映像になっていて、そのクオリティは恐ろしく高い作品になっている
美術造形の作り込みがすごく、映画内で使われている素材で作っているかのような感覚になってくる
このあたりのリアリティがかなり高いので、グロ映像の完成度もかなり高くなっていて、正視できないシーンも多かったりする
物語は、エラが少女の映画を作っていく中で狂気に満ちた行動を取っていくというもので、少女の正体が何なのかを追って観ていくという流れになっている
彼女の正体はかなりわかりやすいものの、ラストの箱の中に入って終わりというところは解釈が分かれそうな印象があった
あの箱は劇中で顔を覗かせる小部屋なのだが、それが何なのかは観た人に委ねますという感じになっている
また、その箱に入るときに少女が放つ「最高だね」というセリフの解釈もなかなか難しいように思えた
少女は、いわゆるエラの潜在意識を具現化したもので、深層心理に近いものだと思う
それが母の死によって顕在化し、肥大化してエラを取り込むという構図になっていて、イメージショットとしての卵の孵化というものがあった
また、ラストの小箱は「潜在意識が自意識を閉じ込める」という意味合いになっていて、これから先のエラは潜在意識が支配するようにも思える
それによって現実世界のエラがどんな感じになるのかはわからないが、精神をシャットダウンしているようにも思えるので、傍から見ると人形のような存在になっているのかなと感じた
映画では、母親は常に娘を「パペット(操り人形)」と呼び、エラが母親の操り人形になっている前半が描かれていた
だが、操作する者がいなくなると途端に制御不能になり、そこに新しい操作者である潜在意識が顔を覗かせてく
少女は、抑圧されてきた自分自身であり、さらに肉体を破壊することで快楽を得ていく
これは精神が肉体を乗っ取って滅ぼしていく過程を描いているように思え、それが完結したことを示すのが箱の中に入るという行為なのではないだろうか
冒頭では、激しいライトに照らされるエラが描かれ、あの映像も実写のエラを連続で重ねているストップモーションだった
だが、表情が徐々に変化し、悪魔的な感じになっていくので、挿入する表情のバランスを変えて変化をつけているのだと思う
いくつかの表情を用意して、それを均等に連続させていくのと、意図的にバランスを崩して思い通りの表情を見せるのとでは意味が変わっていく
それは、潜在意識における自意識の侵食バランスを表していると言え、後半が悪魔的なのは、エラの潜在意識に悪魔的な部分が多いからなのだろう
現に潜在意識にほぼ乗っ取られた状態では鬼畜の所業を見せていて、それゆえに小さくなって箱に入っていく自意識は自らが望んでその箱に入ろうとしている
あの部屋自体が彼女の魂の拠り所とすれば、より安全なのは「潜在意識に守られた場所」ということになり、それは自我を超越したところにあるということなのかもしれない
いずれにせよ、かなりグロ映像が強烈なので、その方面がダメな人は避けた方が良い作品であると思う
映像的な完成度とか、精神世界の哲学的なテーマなどは面白いのだが、それを表現するのに血が必要というところに監督のセンスが凝縮されているのだろう
個人的には、話は好きだけど映像はダメという感じで、後半のグロシーンは目を瞑って音だけを聴いていた
それでも想像できてしまうのが辛いのだが、想像させるだけの積み重ねが前半にあるので、その辺りも加味しつつ、大丈夫な人は凝視したら良いのかな、と思った