小川のほとりでのレビュー・感想・評価
全9件を表示
小川のように自然かつ豊かに流れゆく珠玉の会話劇
キャリアの中で特別に秀でた作品というわけではないが、ホン・サンス未体験の人にとっては彼の妙味を堪能できる絶好の入り口かと思う。舞台は芸術大学。題材は学生の寸劇づくりの現場。と言っても、主人公は学生でなく、指導を担う大人たち。過去に幾度も主演を務めたキム・ミニとクォン・へヒョらが奏でるナチュラルなセリフの応酬が時にフフッと可笑しく、そこにお酒が加わると気持ちがだいぶ緩まって、人間の思わぬ別の横顔、別の感情を覗かせる。この最小限の交わりに自ずと聞き入り、すっかり引き込まれている自分がいる。これぞホン・サンスならではの魔法。さらに出色なのは学生たちの打ち上げシーンで、他愛のない会話の話題が彼らの夢や未来にまで広がっていく流れはひときわ美しく、感動的だ。関係者を困惑させつつ学生の心を充実感でいっぱいに満たす”寸劇”は、ある意味、ホン・サンス自身が理想とする映画作りの最も純粋な投影なのかもしれない。
ジョニムの災難
ソウル郊外にある芸術系の大学。キム・ミニ演じるクン・ジョニムさんはテキスタイルの作家であり、おそらくは工芸美術を教えている。
この映画は、このジョニムの身に振りかかる災難を淡々と追いかける。災難それ自体が画面に登場することはあまりなく、何が起こったかは登場人物の会話のなかで暗示的に、あるいは明示的に示される。
ホン・サンスの作品はみなそうなのだが、そこに何らかの哲学的な意味合いはない。少し奇妙な人たちの会話劇というのが本質なのだと思う。
この作品では、例によってクォン・ヘヒョがクズ男として登場する。今回は少し手が込んでいて、この俳優出身でジョニムの叔父である演出家は、最初、ジョニムの苦境を助ける存在として現れるのだが、結局、彼の手にかかる学生芝居は政治的であるということで不評、ジョニムと教授は総長に叱責される。そして、おそらく女性問題で干されているこの男は、ジョニムの尊敬する教授(チョ・ユニ。イ・ドンゴンと結婚していたことがある)と懇ろになってしまう。そして、ジョニムの母である姉と長年、不仲であることも最後になって分かる。
ジョニムとしては踏んだり蹴ったりというところなんだろうけど、表面だって目上の人の逆らえないのが韓国社会。耐えるのですね(一箇所、声を荒げるところかあるけど)この辺の役柄はキム・ミニさんの凛とした感じによくマッチする。
ホン・サンスのドラマはどれも面白いけど、やはりキム・ミニが出演した作品は芯がしっかりしている感じがします。
そうそう、月がだんだん満ちていくカットが何度も映るけど、あれは単なる時間的経過を表しているというよりジョニムさんの体調の変化も示しているのでしょうね。最後に、うなぎ屋に行く前にラーメンを食べたり、うなぎ屋で自分をコントロールできなくなるのはPMSということかと私は理解したんだけど。
やはりキム・ミニには魅せられる!
キム・ミニが相変わらずとても可愛いです。
これまでは登場人物の中で年少のパターンが多かったですが、今回は美大の助手役。学生たちとの絡みでの受けの演技もなかなかに魅せます。校庭で女学生3人と酔いを覚ますシーンは秀逸です。
「それから」の少し尖ってたり、「夜の浜辺でひとり」のかなり憂えていた頃と比べて、安定というかわずかにくたびれた感じがまたとてもいいですね。
白髪を敢えて隠さないのは、ホン・サンス監督との信頼関係あってこそなのでしょう。
何しろ9年間の不倫関係の末に婚外子をもうけたのですから、覚悟ができたというかステージが前に進んだという感じでしょうか。まさに無敵のカップルですね。
劇中の叔父の「去年離婚した。10年も争ってからようやく裁判所も認めてくれた」と言うセリフはホン監督の心からの願望なのでしょう。
食事のシーンで叔父が少しむせる場面があったのですが、隣にいた教授がさりげなく背中をさすろうとするんですね。多分アドリブだと思うんですが、男女の機微を絶妙に表した良いアクシデントだったと思います。
月刊ホン・サンス第2弾『小川のほとりで』ホン・サンスとキム・ミニが導く、美しい映画の入口
「いつものあなたも」「はじめましてのあなたも」「ひさしぶりのあなたも」と銘打った月刊ホン・サンス。月刊ホン・サンスは先月公開の「旅人の必需品」を皮切りに5カ月連続で新作を公開するというホン・サンスファンにとっては待ってました!と言いたくなる企画です。その第2弾『小川のほとりで』が12月13日からユーロスペースで公開され鑑賞しました。
監督・脚本・製作・撮影・音楽・編集とすべてホン・サンスがおこない、主演はホン・サンスのミューズであるキム・ミニ。どこかホン・サンスとキム・ミニのプライベートフィルムのような濃密な映画になっていました。キム・ミニは本作で第77回ロカルノ国際映画祭最優秀演技賞を受賞しました。ホン・サンスの映画作り、キム・ミニの魅力を感じるのであれば、「はじめましてのあなた」には最高の一本だと思います。そしてホン・サンスの映画の沼に入ってもらえればうれしいです。
冒頭から3回写される川辺でスケッチするキム・ミニの佇まいが何とも言えずいい。凛とした表情とはじける笑顔が美しい。叔父と教授の敬愛も美しい、女子学生たちの「これから」のポエムも美しい。ラストシーン、小川のほとりで叔父と教授の前から一瞬消えるキム・ミニ。戻ってきたときに浮かぶキム・ミニの笑顔が美しい映画の余韻を残しています。
本当に美しい映画でした。皆さんも月刊ホン・サンス体験いかがですか。
「自分ではない何かになりたい」という女子大生より よほど青春を謳歌してるように見えるおじさんおばさんたち
感謝−−日本語では「カンシャ」と発音します。漢字の大もとの中国語では「カンシエ」(まあ概ねこんな感じ)と読みますが、韓国では「カムサ」となります。そう「カムサハムニダ」の「カムサ」です。この映画ではこの「カムサハムニダ」がけっこうたくさん出てきます。そして、だんだん何に対して感謝しているか、わけがわからなくなってきます。でもまあ心から感謝しているかどうかはこの際おいといて、感謝の意を表せずにはいられないということなのでしょう。
この物語の主人公は芸術系の女子大で講師をしているジョニム(演: キム•ミニ)です。教え子たちが寸劇をするにあたって顧問めいたことをしているのですが、演出をお願いしていた外部の男子学生がこともあろうに寸劇出演者のうちの3人の女子大生に三股をかけて交際を開始していたのが表沙汰になってしまい、その男子学生が演出を続けられなくなるわ、出演予定だった三股された3人の女子が出演をやめるわで寸劇を発表できるかどうかの瀬戸際まできます。そこでジョニムは高名な俳優で演出家でもある叔父(自分の母親の弟 演: クォン•ヘヒョ)に、残った4人の女子の出演でやる寸劇の脚本と演出をお願いします。
この叔父さんてのがなかなかのクセ者でして、何かは明かされてないけど何らかの理由で業界内で干されてるし、ジョニムのお母さんとの姉弟の関係も最悪の状態になっているようです。まあでも彼は今回の依頼事項は気にいってるみたいで調子に乗って、本人は大満足、ハタから見ているとけっこう怪しいことをいろいろとやらかしてくれます。ジョニムにしてみれば、結果的に「ありがた迷惑」事項のオンパレードみたいですが、やはりまあ感謝の対象なんでしょうね。
結局、この映画、テーマもなければ、何の思想性もない、哲学もなければ、教訓もない、感動もないといった感じなのですが、スクリーン上で交わされる会話が「寸劇風」に楽しく、全体的にポジティブで楽天的で、生きてゆく上での元気がもらえたような気分になれました。そして、そんな私はエンドロールの流れるスクリーンに向かってそっとつぶやくのです。
カムサハムニダ。
遡行から未来へ。
2024年。ホン・サンス監督。芸術デザイン系の女子大学で働く女性講師は、学生たちの演劇が行き詰ると、元俳優兼演出家の叔父を呼んでくる。叔父の大ファンだという女性教授を交え、学生たちと大人たちの特別な日々が始まる、という話。
過去に何かがあって不遇の日々を送っているという叔父の「何か」は明かされないまま物語は進む。テキスタイル作品を制作する女性講師はソウル中心の漢江を遡るように連作を制作中だが、大人たち3人がよくいくうなぎ屋の傍らを流れているのもその上流だということが最後に明かされる。学生たちの演劇の行き詰まりの原因も徐々に明らかにされていき、叔父と姪の関係も過去にさかのぼりながら明らかにされていく。川の遡行、時間の遡行。「遡行」は明らかにこの映画の主題だ。
ところが、ただ遡って終わるわけではない。演劇を終えた女子学生たちが、演出家の求めでそれぞれの将来の希望を「詩」として涙ながらに述べるとき、そこには彼女たちのこれまでを踏まえて、これからが力強く宣言されている。叔父は姉(つまり姪の母)をめぐる過去の確執に触れて興奮し姪と衝突してしまう。ところが、そこでも互いに知らなかった事実を知って素直に和解し、今後の交流を誓い合う。「遡行から未来へ」が主題なのだ。
うなぎ屋の傍らの小川を一人でさらに上流へとさかのぼり、いったん消えるものの、笑顔で再び現れるキム・ミニの姿で映画は終わる。この楽天性が映画だ、と言いたくなる。
フィルメックスで見ました
年に一本どころか複数本撮ってるホン・サンスの新作。女子4人が舞台を作るってことで、ジャック・リヴェット「彼女たちの舞台」とか、濱口竜介作品とかを連想したが、やっぱりいつものホンサンス節のサラッとした軽い味わいの映画でした。
いつもよりユーモアも多めだったような気も。会場でも笑い声が起こっていたし。
特に最後のセリフに笑っちゃいました。キムミニが出てるから、「小説家の映画」みたいに何かあるのでは、という観客の期待をするりとかわすようなメッセージと受け取りました。ああ面白かった。次も楽しみ。
全9件を表示






