「そこらの鑑賞では返り討ちにあうだけなので注意。」ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
そこらの鑑賞では返り討ちにあうだけなので注意。
今年34本目(合計1,576本目/今月(2025年1月度)34本目)。
経済モノノワール映画という分類になりますでしょうか。アクションシーンは一応出ることは出ますが(不満に思った人が喫茶店で暴れる等)、大半が(日本でいうところの)商法会社法の話で、さらに簿記会計や、果てに商業登記法の知識や、裁判一般の知識まで要求してくる字幕が無茶苦茶に厳しく、そこそこの知識がないと詰むのでは…といったところで、去年(2024年)でいえば、ジャッキーチェンのアクション映画か…と思ったら、飛んでくるのはカンフーのキックで「なく」、なぜか中国の民法用語が飛びまくる(「善意取得」などという語が飛んできた)のに近い感じか…といったところです。
ある程度の知識がないと何が言いたいかある程度わからなくなって後半も結構厳しくなるところです。まともな理解を要求しようとすると相当な知識が求められるのがどうかなぁ…といったところです。
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(減点0.3/極端に難易度が高く、観る人を限定してしまう)
この点、法律ワードを飛ばしまくって混乱させた「シャイロックの子供たち」や「あきらとアキラ」などのレベルに匹敵しているので、そこそこ知識がないと詰みます(少なくとも法学部レベル以上の知識がないとアウトな気がする…)。
ただ、かなり遠くの国の法体系ではなく香港の法体系なので、日本のそれをある程度推測できる点において、ある程度法律系資格持ちは何とか対処できる範囲ではありましょうが、それも結構きついです。映画館でまで判例百選を思い浮かべるような作品はちょっと…。
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(減点なし/個々のセリフほかについて)
「会社を設立する登記が必要だから役所に行く」
→ 登記というのは例えば日本民法177条が参照する不動産登記法以外にも、会社設立のときにも登場し、こちらのほうを商業登記(会社設立登記)といいます。日本でこれを扱うのは司法書士という方です(弁護士でも行いうるが、専門性が高すぎるので基本的にはノータッチ。行政書士は初歩が理解でき、お客さんから聞かれたら「登記というのはこういうものなので、近くの司法書士のところにいってね」程度は言いうる)。
会社設立に対して、詐欺の被害者などが何も言わないのはなぜか
→ これはおそらく、日本の商法会社法において、「民法総則の瑕疵ある意思表示(心裡留保、通謀虚偽表示、錯誤、詐欺・強迫)は、会社設立の場面では、第三者対抗要件の論点がない(適用がない)」という趣旨の条文が香港にもあるものと思われます(それらは確かに民法上保護しえても、会社という多人数が関わるものに対して無効・取消しを主張できると法的安定性を欠くため。日本では明確な条文あり)
※ ただし、(日本では)条件を満たす限り、裁判上の請求をもって無効・取消しを主張できる場合があります(要件は限定されます。他の株主を害さないようにするため。また、将来効しかない(←つまり、無効・取消しが成立しても、過去にさかのぼる処理はされない))。
株主を害するような会社の取締役の行為(会社分割など)
→ 日本では異議を述べることができます。また、異議を述べることができないものは、条件を満たす限り詐害行為取消権を行使可能です(平成24.10.12)。映画内で同様な展開になるのは、同じ趣旨の条文があるものと思われます。
「検察官の不備によって裁判が終わり再度訴えられることはなかった」
→ この部分は、日本の刑訴法の「既判力」や「二重の危険の禁止」の趣旨が当てはまっているものと思われます。
なお、こうしたように「検察側に不利な規定」が置かれているのは、検察官は法を熟知しているから、という理由であって、民事裁判や行政裁判では弁護士などつけずに訴えることもしばしばあるので、被告の誤りや手続きのミスについてはある程度配慮されます(日本の場合)。
最高裁判所(相当)における事実審について
→ 映画内では「最高院」という表現で出ますが、日本では最高裁は法律審(ある事件が法律(特に、憲法)に合致するかしないかを争う裁判)であり、事実審(実際にある事件があったかなかったかを争う裁判)は行わないのが通例です(ただし、刑事事件で死刑か無期懲役が争われているような裁判では、通例でこれらは開かれます)。
この点、香港では扱いが異なるものと思われます(ただ、ここはかなりマニアックか…)。